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ダックスとしば
わたしは、「いぬ」というものらしい。
さらに、「いぬ」のなかでも「ダックスフンド」というものらしい。
人間達の会話で、わたしは自分がそう呼ばれるものであると知った。
わたしは犬のダックスフンド。
いつも小さな部屋で、壁沿いに並んだケージの中に居る。
たいていは、寝て過ごすか、適当におもちゃで遊ぶかしている。
たまに、隣のケージの「ちわわ」や上のケージの「ぱぐ」と会話するけれど、2匹ともわたしと同じく、仕事にいかない犬で、ずっとここで過ごしているから話題も特になくて、続かない。
だから、いつも、わたしはここでだらだらと過ごしている。
暇な1日だけれど、退屈で仕方ないわけじゃない。わたしたちを世話する人間たちの会話を聞くのは面白いし。仕事から帰ってくる他の犬たちに、お客の人間たちについて聞くのも興味深い。といっても、わたしから話しかけることはない。わたしはあまり犬付き合いが好きでないからね。会話に混ざらないで、なんとなく耳をすますだけ。でも、楽しいよ。
わたしは、積極的に他犬と関わるのは好きじゃない。でも、それを知っていてやたら話しかけてくるやつがいる。向かいのケージの「しばいぬ」だ。あいつは、毎日仕事に行く犬達のうちの1匹で、今日はこんなお客が来たとか、人気のといぷーどるが買われていったとか、そんな話をしてくる。正直、うっとおしい。嫌いなわけじゃないけど。もうそろそろ、あいつが帰ってくる時間だな。
「ただいま、ダックス。」
人間に連れてこられたしばいぬが話しかけてくる。わたしは、いやな顔をした。
「おかえり。しば。」
「そんな嫌そうな顔しないでよ。」
「うるさいやつが帰ってきたなと思って。」
「ダックス、そんな冷たい態度とるから友達できないんだよ。」
余計なお世話、と言って顔を背ける。不機嫌ですって顔をするけど、しばはニコニコ笑っている。そういうヘラヘラしたところがうっとうしい。
「ふふ。聞いてよ、ダックス。今日はね…。」
でも、しばの話は面白いから聞いてあげる。会話の途中、自分のしっぽが揺れているのに気づいた。なんか、癪だけど、止められないんだもの。ちっ。
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