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通っている大学の一区画に、七夕の笹が数本飾られている。
「お願いします」
リア充を絵に描いたような笑顔の女子学生に、ペンと短冊を手渡され、バカバカしいと思いながらも願い事を短冊に書き込んだ。
「書けたら、どこでも良いので笹に括ってください」
書き終わった俺からペンを取り上げると、作り笑顔で笹を指差す。
誰にも見られないであろう位置に、俺は短冊を括りつけるとその場を後にした。
夕方に同じ場所を通ると、また女子学生が声をかけてくる。
すでに書いて括ったことを伝えて、自分が括りつけた位置を見ると、まばらに括られた短冊の中、俺の短冊のすぐ隣に、寄り添うように赤い短冊が括られていた。
妙に気になる。
『由香がYと別れて俺の彼女になってくれますように』
俺が書いた短冊の隣に括られた赤い短冊を見た。
『彼が別れてくれて森くんと付き合えますように』
――嘘だろ?
これって、俺に対するアンサーコメントだよな?
由香の顔が脳裏に浮かんだ。
由香も俺のことが好きで、山口と別れたいと思っているのだろうか?
希望に胸が膨らむ。
その夜、アパートのドアがノックされ、開けると由香が立っているではないか。
「ねぇ、あの短冊って私のことだよね?」
由香に聞かれて俺は頷いた。
「前から森くんは私に気があるって思ってて、それで……私も森くんのことが気になってて」
「マジ?」
「でね、昨日山口くんに別れてって言ったの」
「えっ?」
「あの人束縛が酷くて、うんざりしちゃって」
「そ、そっか」
「ねぇ、上がってもいい?」
「あ、もちろん」
俺は万歳したい気持ちを抑え、由香を部屋の中に招き入れた。
「どこでも座ってよ。コーヒーでいい?」
「あ、うん」
お湯を沸かし始めたとき、スマートフォンが鳴る。
『大変だ。ニュース見たか森?』
「は?」
『山口が由香を殺して自殺したって』
「嘘だろ?」
振り向くと、すぐ真後ろに、血塗れの由香の顔……。
「彼女にしてくれるよね?」
由香の口角が上がった。
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