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落ちる直前。 ヒワの泣き声が聞こえた気がした。 そして気球がぐらりと揺れて。 地面にぶつかる瞬間。 横風が入り込んだ。 気球は派手に横転して。 籠が何回も転がって。 投げ出された。 起き上がる。 気球は炎に包まれている。 「ヘビクイ!」 呼んでも返事がない。 「どこだ!」 見渡しても。 姿がない。 籠の中か? 炎の中に腕を入れる。 「どこにいるんだ!!」 焼け焦げた球皮を剥ぐ。 煙を吸ってぐったりとしたヘビクイがいた。 「ヘビ!」 抱え上げる。 炎が顔を焼く。 でもそれに構ってる暇などない。 ヘビクイを引き摺り出す。 球皮を掴んだ右腕が燃えている。 構っている余裕などない。 「ヘビ…  ヘビクイ、  息をしろ…頼むから…」 うっすら目を開ける。 ひび割れた唇がかすかに動く。 何も聞こえない。 墜落現場にたどり着いたヒワは。 大火傷を負い、従兄弟を抱えて啜り泣くサルクイを見つけた。 「サル!ヘビ!」 サルクイは右腕から顔まで大火傷を負った。 腕は満足に動かなくなった。 何ヶ月も包帯を巻いて。 痛々しい姿だった。 里の誰もが、声をかけられなかった。 ヘビクイは熱風に喉を焼かれた。 声を出せなくなった。 いい薬が手に入るからと、港町での仕事に着くことになり。 サルクイを置いて里を出た。 「サルクイ…」 「俺と口聞くなよ。  風に嫌われるぞ」 1人になったサルクイは。 相変わらず木の上にばかりいる。 片腕が使えなくても。 軽々と登ってしまうようだ。 ヒワもひょいひょいと登って。 サルクイの隣に座る。 「信じたくないかもしれないけど、  あの時、  南の空の風が、  助けてくれたの」 だからここ数ヶ月。 毎日南の風に祈ってるのか。 「南方遠征のこと、  サルクイは怒ってたでしょ?」 「まさか、  それを知ってて助けてくれたとでも?」 「…風も、悲しんでくれたのかもしれない」 顔を背ける。 風なんて。 木々の葉を。 風が揺らす。 ヒワの髪を躍らせる。 サルクイの赤い皮膚の上を。 涼やかな風が。 走っていく。 「私、自分の意思で唄うたいになる。  大人の言いなりにはならない。  自分で考える」 10歳にもならない歳で。 ヒワは決めた。 「誰の言いなりにもならない」 あれ以来。 ヒワは一度も泣かない。 サルクイは、この5年後。 再び風と対峙することになる。 続
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