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33 衝撃的な朝
翌朝―
部屋にひかれたカーテンの隙間から朝日が差し込み、私の顔を照らした。
「う…ん。まぶしい…」
そしてゆっくりと目を開けて、ベッドサイドに置かれたゼンマイ仕掛けの置時計を見ると時刻は午前6時半をさしていた。朝日のせいでいつもより少し早い時間に目が覚めてしまったようだった。
怪我をした右手首を庇うようにゆっくりとベッドから起き上がり、包帯で固定されている右手首にそっと左手で触れてみる。
「だいぶ痛みがひいてるわ…。きっと医務室の先生の処置が良かったお陰ね」
ベッド下に置かれた室内履きに足を通すと、私は床に降り立ってクローゼットへ着替えを取りに向かった―。
****
コンコン
「失礼いたします。テア様。お目覚めですか?」
起床して30分後、部屋のドアをノックする音とマリの声がドア越しに聞こえてきた。
「ええ。起きているわ。入っていいわよ」
カチャリとドアの開く音が聞こえ、マリが部屋の中に入ってきた。
「失礼いたします…。え?テア様。もう起きて着替てらしたのですか?」
既にワンピースドレスに着替え、カーテンを開けてドレッサーの前で左手だけで長い髪をとかしていた私を見たマリが驚きの表情を浮かべた。そしてツカツカと近づいてくる。
「ええ、今朝は少し早く目が覚めたの。だから自分で準備をしたわ」
「ですが、右手首を怪我されているのに…。私が髪をセットいたします」
「そう?それじゃお願い」
持っていたブラシをマリに渡すと、彼女はなれた手つきで私の髪をブラッシングしていく。そして言った。
「本当にテア様の髪は柔らかくて、つやつやと光沢があって…綺麗ですね」
「そう?ありがとう。でもキャロルの方が綺麗な髪だわ。金色に輝いているもの。ヘンリーと同じだわ…」
ヘンリーの事を考えれば、まだ胸がチクリと痛んだ。けれども私はヘンリーに嫌われている。そしてキャロルの事を好き。
キャロルだって…。
2人の事を考えると気分が落ち込んでしまう。するとそんな私の様子がおかしいことに気づいたのか、マリが言った。
「テア様。今日はいつもと違うヘアスタイルにしてみませんか?実は今最近流行のヘアスタイルというもがあるのですよ?」
「まあ…そうなの?それじゃ、ちょっとお願いしようかしら」
マリが元気づけようとしてくれているのが分かったので、私もその話に乗ることにした。
「はい、では早速…」
そしてマリは鮮やかな手つきで、私の髪をセットしてくれた—。
****
「おはようございます。お母さん」
ダイニングルームへ行くと、昨夜の予告?通り、母が既に白いテーブルクロスのかかったダイニングテーブルの前に座っていた。
「おはよう、テア。あら…?」
「何?」
「そのヘアスタイル…いつもと違うわね?」
「そう?マリがセットしてくれたの」
「とてもよく似合っているわ」
母が笑みを浮かべた。
「ありがとう」
テーブルへ向かうと、私は左手で椅子を引いて席に着いた。テーブルの前には手でつまんで食べられるサンドイッチ以外に、パンケーキやワッフル、スコーン、サラダ、それにウィンナーやスクランブルエッグ迄並べられている。その量の物凄さに私は驚いてしまった。
「え?お、お母さんッ!私…こんなにたくさん食べられないわ。大体、お母さんは食べないのでしょう?無理よ…1人でこんなにたくさん。料理が無駄になっちゃうじゃないの!」
すると母が言った。
「何言ってるの?テア。無駄になるかどうかまだ分からないでしょう?」
「え?」
母が何故か意味深な発言をした、その時…。
コンコン
ダイニングルームの部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
母が答えると、ドアがかちゃりと開けられ、フットマンが姿を現した。
「失礼致します。お客様がお見えです」
「そう…やはり来たわね?」
母が口元に笑みを浮かべる。
「え?来た?一体誰が?」
しかし、母はそれには答えずフットマンに言った。
「いいわ、これから始めるところだったから…丁度良かったわ。通してちょうだい」
え?始める?始めるって…一体何の事?
「どうぞお入りください」
私の場所からは見えないが、既に相手はドアの外に待機していたのかフットマンが声を掛けた。
次の瞬間、私は驚いて心臓が止まりそうになった。
「失礼します…」
何とダイニングルームへ入ってきたのはヘンリーだったのだ。
手には大きな花束が抱えられていた―。
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