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1. 部活見学へゴー!
「それでは、これから興味のある部活を見に行ってください」
先生が言い終わると、まわりが次々に立ち上がり体育館を出て行く。
今日は、私たち新一年生の部活見学の日。
今から希望の部活を見に行って、考えて、一週間以内に入部届を出さないといけない。
中学生活の青春を左右する部活! 大きな決断をせまられる一週間!
みんなの顔は真剣そのものだ。
「みおりちゃん、もう入る部活決めた?」
同じクラスの湖奈ちゃんが、体育館シューズの袋をクルクルまわしながらきいてきた。
「うん。邦楽部」
「そっかぁ。みおりちゃん、お箏できるもんね。私は何しよっかな~」
そう。私の家にはお筝がある。
お正月になると、テレビやスーパーの売り場でよくきく音楽。
その「和」な音楽を奏でる――細長い木に絃が張ってある楽器が箏。
実は、おばあちゃんがすっごく上手なんだ。
それもそのはず、おばあちゃんは昔、お筝の先生をやってたんだって。
私、時々だけど、おばあちゃんに教えてもらってるんだ。
「湖奈ちゃん、まだ決めてないんだったら、いっしょに邦楽部入ろうよ」
「ムリムリ、音楽全然できないし、ましてや和楽器とか難しそうだし。楽譜読めないし」
湖奈ちゃんが手をブンブン振って、苦い顔をする。
……そうだよね。
私だって初めてお筝の楽譜見た時、漢数字ばっかりでなんだこれ? ってなったもん。
なにかの暗号? って目がクルクルしたっけ。うん。気持ちは分かる。
「私、いっぱい体動かしたいんだ。入るとしたら運動部かな」
「湖奈ちゃん、運動神経いいもんね」
あいづちをうちながら、内心がっくり。
湖奈ちゃんと一緒に邦楽部入れたら……なんて、あわい期待がガラガラくずれていく。
邦楽部に入りそうな子、他にいるかな?
バスケやサッカー、人気の家庭科部に吹奏楽部……教室のみんなは、邦楽部のほの字も口にしてなかった。
それに。部活紹介で、邦楽部は部員一名って言ってたのも引っかかる。
一名ってことは、あの説明してた部長さんだけってことだよね。
……もしかしたら、一年は私だけで、あの部長さんと二人っきり……。
もし部長さんと気が合わなかったら、これからすっごく気まずい部活生活を送ることになる。
うっ。やっぱり、ちがう部に入る? でも、他に入りたい部なんてないし……
一人で考えこんでると、湖奈ちゃんを呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、アイちゃんだ。ごめん、みおりちゃん。私、アイちゃんとバレー部見にいく約束してたの。またね」
手をふる湖奈ちゃんが、体育館の入り口にいるアイちゃんの方へかけていく。
ぽつり、一人残された私。
はぁ。しょうがない。一応、見学だけでも行くかぁ……
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