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幸せのありか(2)
え、日本人って、そんなに小食なのか?
貝が好きだと言うから、普通にこの量を食べれると思った。足りないと困るから、じゃがいものフライも山にした。
「美味しそうだよ。気にしなくていいよ、ルル。食べきれない分は冷蔵庫にしまっとけばいいんだから。ほら、冷めないうちに食べよう」
ご主人様が優しくうながすが、僕は逆に、内心で歯噛みした。
食べないから細いんだ。細すぎだ。病人なのに。
「あなたはもっと食べた方がいいです。しっかり食べないから──」
──襲われちゃうんですよ。
と続けそうになって、僕は赤面し、口をつぐんだ。
先日、寝込んでるご主人様に狼藉を働いたのは、僕だ。もうあのような無茶はすまい。
彼の栄養状態を良くするほうが先だ。冷凍食品と保存食ばかりを止めさせて、三食きちんとしたご飯を食べないとだめだ。
鍋はご主人様の口に合ったらしい。
スプーンで一口、スープを飲んだあと、驚いたような声がした。
「美味しい。スープにダシが出てる」
ご主人様は嬉しそうにムール貝を食べている。
相伴する僕も胸が躍る。
ふと、気になっていたことを聞いてみた。
「ところでご主人様って、この街に来る前はどんな仕事をされてたんですか?」
「んー、神戸の貿易会社に勤めていたんだ。発病前まではごく普通に働いていたよ」
「貿易業務? 何だか意外です」
「はは、占い師でもしていると思った? 私は日本の神戸のある一族の出身でね。一族の経営する企業に勤めていたんだ。貿易事業はそのひとつだった」
ご主人様は、遠い昔話をするように話し出す。仕事で使っていたのだろうか、ご主人様は品の良い英語を話す。僕との会話も、英語で不自由はない。
「仕事も、暮らしも、忙しかったけど不満はなかった。家の決めた許嫁もいた。良家のお嬢さんだったな」
思わず発言に、僕は飛び上がりそうだった。ムール貝を食べる手が止まる。
「フィアンセがいたんですか!」
「彼女とは、とっくの昔に破談になっているよ」
ご主人様は苦笑した。小さく笑いつつも、少し寂しげな眼差しだった。
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