純愛クライシス 一ノ瀬成臣の場合

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☆☆☆  ふたりきりで話をするハズなのに、副編集長に連れられたのは、滅多に使うことのない大会議室だった。編集部の隣にあるミーティングルームじゃないことを訝しく思いながら、恐るおそる口を開く。 「あのぅ、さっきは悪かったな。編集長から庇ってくれて」 「情けないツラしてんじゃねぇぞ、成臣。どう落とし前つけてくれるんだ?」 「めちゃくちゃ怖いから、いつもどおり喋ってくれるとありがたいんだけど」  今頃気づいたのだが、顔がやーさん並みに厳つい副編集長がおねぇ語で喋ることで、ちょっとばかり凄みが減っていたのを、しみじみ思い知る。だだっ広い大会議室が薄ら寒く感じて、思わず震えあがってしまった。 「編集長に副編集長として、なんとかしろと命令されてるからな。それは無理な話なんだよバカ成臣」 「プレッシャーを感じすぎて委縮してしまったら、いいものが撮れないかもしれない……」 「俺の前だからって甘えるんじゃねぇ!」  怒号が大会議室にぐわっと響き渡り、耳が痛くなった。肩を竦めながら、体を小さくする。 「おまえは現役時代の俺を見てるから、知ってるだろ。ガセネタのなかに潜む真実を見極めるために、分析と精査を繰り返し、他所が見逃したスクープを何度も世に知らしめた俺を!」  返事をせずに、ビビりながら首を縦に何度も振った。現役時代のアキラの凄さを口にされたせいで、嫌な予感が胸の中を駆け巡る。 「白鳥の初夜が失敗したのを知ったあの日、おまえもなんでか落ち込んでいて、あえてその理由を俺は聞かなかった。意味はわかるだろう?」 「わかりたくないかも……」 「成臣の下半身のだらしなさを知っていたが、ここのところは忙しくて、サッパリだったみたいだな」  ズバリと現状を言い当てられたことにより、煙に巻くことができないのがわかった。 「アキラ、どこまでわかってんだよ?」 「成臣がバーで告られたことくらいまでだ」 ( ⊙ ε ⊙ ;)マジカヨ…… 「成臣が躊躇する理由がわからない。どうして彼女の本気に、おまえは応えてやらないんだ?」  直視される視線が痛すぎて、首を垂れて俯いた。 「彼女が本気だから応えられない。それだけだ」 「彼女が嫌いなのか?」 「彼女はいい人すぎる。俺みたいなのにはもったいない」 「そうじゃねぇって! 好きか嫌いかの二択で答えやがれ!」  俺の返答が気に入らなかったのか、ふたたび怒鳴られる。副編集長の煩い声が鼓膜にわんわん響いて、答える気力が失われてしまった。 「そんなの、アキラには関係ないだろ」 「関係ありまくりなんだよ! ハッキリしないせいで、おまえの仕事のクオリティが落ちてんだ。無駄に悩むくらいなら、思いきって付き合えばいいだろ!」 「悩んでねぇよ。きちんと断ってる!」  副編集長の迫力に負けないように、腹から声を出して反論した。 「そうなのか?」 「臥龍岡(ながおか)先輩、成臣くんに一夜限りの相手ならって、変な断り方をされたんです!」  大会議室のどこかで、聞き覚えのある声がした。ギョッとして辺りを見渡したら、一番奥の机の隙間から、千草ちゃんがひょっこり顔を出す。 「どぉゆこと?」  目の前の現状がわからず、呆けた顔をしながら、変な声を出してしまった。
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