姉妹に飢えた者たち

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『ねぇ、私を妹だと思って接してくれない?』  姉妹への憧れが拗れ過ぎた私は、姉も妹も持つ友人に高価なアイスと引き換えに疑似姉妹を依頼した。 『アオイって……そっち系の人?』とあらぬ誤解をする友人。そっち系とはどういう意味だ。 お姉ちゃんが欲しいだけなのに、『私、彼氏いるからね』と予防線を張るのはやめていただきたい。  開始五分で、この友人に依頼した事を激しく後悔した。 会話の途中で彼女は『今日のゼミ、クソだりーわ』と、あるまじき言葉遣いを連発した挙げ句、『妹だったらとっととアンパン買ってこいや』とパシらせて来たので疑似姉妹トークは終了。こんなお姉ちゃんなら要らない。 『アオイってさー姉妹に幻想抱きすぎじゃない? 現実はこんなもんよ』 高級アイスを頬張りながら、せせら笑う友人。 私も一応姉だからそんな事ぐらい承知の上だ。だけど、夢ぐらい見てもいいじゃないか。テーマパークのキャストが笑顔を向けるように、嘘でもいいから理想の姉を演じてくれ。 ○ 『俺もお姉ちゃんが欲しかったなー』 意外な場所で理解者が出現。 大学の部室棟でラクロス部の友人と兄姉論争を繰り広げていた時に、空手部の男がスルッと会話に入ってきた。 「なおッピもお姉ちゃん派なの?」 “なおッピ”と呼ばれた垂れ目な男は、初対面にもかかわらず私のすぐ隣に座り『俺、長男やから。甘える側になりたい』とプロテインシェイカーを振りながら言った。 話を聞けば、3歳下の弟がいて何かある度に“お兄ちゃんだから”“お兄ちゃんのくせに”と言われ続けてきたらしい。悪い事をしたら兄の責任。良い事は弟だけを評価するという環境に疲れているそうだ。 「ちょっと先に生まれただけで一生下の面倒みなあかんからなぁ。未だに弟のオモリさせられとるわ」 わかりみが深い。悲しい第一子の(さが)だ。おそらく死ぬまで我慢を強いられる。 「だから俺にも歳の離れたお姉ちゃんいたら良かったなぁって思うんよ。兄貴の重圧から解放されたい」  激しく共感。巨乳の美人な姉が欲しいとのたまう陸部の男子とは違い、求める理由が私と近い。 「あのさ、真剣に理想のお姉ちゃんについて深く話し合おうよ。あ、私は法学部2回生陸上部の上田葵(うえだあおい)よろしくね!」 「アオイちゃん、俺は経済学部2回生空手部の山岡尚輝(やまおかなおき)や。宜しく!」  ーーこうしてラクロス部の友人が生温かい目で見守る中、我々は同志として友情が芽生えた。
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