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「なーにももその目。りゅうくんはりりのだから絶対に譲らないよ」
「いや取らんわ」
……そう、田村隆一。
彼は璃々菜がベタ惚れしている彼氏だ。
彼はキャラが濃い会長副会長に比べてしまうとどうしても地味に見えてしまうし、わたしと同じクラスなので分かるが、その中でも特に目立つ方ではない。成績も優秀だが、わたし、璃々菜、斎森のようにトップクラスというわけでもない。
だが、そう、璃々菜がベタ惚れしている彼氏なのである。その人となりは推して知るべしだ。
「遅れてごめん。ちょっと先生に用事を頼まれてて」
「いや、全然大丈夫だ。まだ会議も始めてないしな」
「りゅうくんのことならりり、何年でも待ってるから!」
「ありがとう。でも何年もは重いかな」
さらりと流す田村くん。すげえな。
わたしの頭の中に、『猛獣使いリュウイチ』というテロップが浮かぶ。
「ねえりゅうくん聞いてぇ! さっきももがりりのことを性悪って言ったんだよぉ」
「ごめんね藤堂さん、うちの璃々菜が……」
「なんでももに謝るのぉ!? いじめられたのはりりだよぉ!?」
騒ぐ璃々菜。
わたしは、何も説明がないにも関わらず正確に経緯を推測する田村くんに、感動の涙を禁じ得ない。
「それに司、物言いが女子に対して失礼だよ」
「事実を言っただけだろ」
「まったく、ライバル同士なんだから、少しは仲良くすればいいのに」
そう言って肩を竦める田村くんに、「ライバル?」と斎森が片眉を上げた。
わたしはぴく、と肩を揺らして斎森を見る。
「ライバルだろ? 一年生の時からずっと、二人で定期テストの首位争いをしてるんだから」
「首位争いって、俺が一位から落ちたことあったか? ライバルってなぁ……」
ちら、と斎森がこちらに視線を寄越す。
反射的に睨み返すと、斎森は軽くふん、と鼻を鳴らして顔を背けた。
「……そんなこと、思ったこともないよ」
それを聞き、わたしはぎゅっと唇を噛んだ。強く握りすぎたせいで、爪が手のひらを傷つける。
……ライバルとすらも、思われてない。
わたしは眼中にないって言うのか。
ずっとそうだ。ずっとわたしばかりが、こいつの背中を追いかけてる。
どんなに努力しても、届かない。
……でも、諦める訳にはいかないんだ。
初めてこいつに負けた時、絶対にいつか勝ってやるって、誓ったんだから。
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