第一章  翔之介・IN・ハワイ

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 「いいねッ、ユキ」  「浮気なんか絶対に許さないって、翔之介さんに教えてやるんだよ。彼に夢中だってところを、ハッキリと見せ付けなさいッ」  「男は強がっているけど、本当は弱っちぃ生き物だんだからね!」  ミツコの言葉を信じて、レストランに行くまえから、用意周到な戦闘準備をした。  作戦は見事に成功。  翔之介は慌てて頚動脈(けいどうみゃく)の上に配置した親指を撤退。ユキの首にかけた手を、そのまま下に滑らせると背骨に沿ってユキの身体を優しくなでる。  腰を強く引き寄せると、誰よりも愛しいユキを抱きしめた。耳元で愛の言葉をささやきながら、シッカリと抱き締めたまま。  幸せそうな笑みを浮かべるとユキの匂いに包まれて、翔之介は熟睡した。  ユキはそっと片目を開けて、翔之介の敗北を確認。  やっと眠れると思った瞬間、翔之介の(けた)違いの情熱に疲労困憊していたユキは深い眠りに落ちていた。  嫉妬には、嫉妬返しの集中砲火だ。  現代のデズデモーナは強かった!オセローの嫉妬を、粉々に粉砕したのである。  しかしジョジョが、このまま大人しく黙って引き下がると思ったユキが甘かった。  翌日のティータイム。  執事が銀のトレーに乗せ、フレデリックからのメッセージを持ってきたのである。  「今朝ほど、花束と一緒に届きました」  執事がなぜ、そんなに遅くなってからメッセージカードを持ってきたかと言えば、事は簡単。  昨夜の一件を、運転手は執事に報告。  執事はさっそく、日本にいる大奥様のお耳にご注進したのである。  【もしもし伝言ゲーム】のようなキャッチがもたらす弊害(へいがい)か。昨夜の出来事を、翔之介の悪い癖がまた出た証と捕えた両親が、別荘に厳戒態勢を敷いたのだ。  「あのフランス製のあばずれを、一歩も敷地内に入れてはなりませんよ」  「よろしいですね!」、それは厳しい命令が下ったのである。  ユキが泣いたと言う事実は重い。  翔之介に近づく毒虫として、ジョジョはめでたく認定された。一緒にいたフレデリックも同罪だ。フレデリック・ザボンの調査内容が、翔之介の母の怒りに火を注ぐ。  「こんな評判のよくない男に、ユキを紹介するなんてッ」、それは血相を変えて怒りに燃えたようだ。  そんな訳で。  花束は焼却処分、メッセージカードには母親からの伝言が付いていたのである。  『ユキを泣かせたら許しませんよ』、翔之介が楽しそうに笑った。
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