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 鍋の中で、湯が沸騰している。  私は粉末だしを入れた。だしの湯気が立ち、顔を湿らせた。  朝のサイレンは、まだ鳴らない。  私は首を回し、だしが火にあおられるのを見ていた。  味噌をいれてかき回していると、床がきしみが近づいてきた。 「兄ちゃん、おはよう」  生ぬるい熱が、私を後ろから覆うのと同時に、挨拶をした。 「うん……」  返事は、いまだ夢の中からだった。体中から、すえた汗のにおいがする。 「お風呂、はいる?」  熱っぽくてごつい手が、私の体をまさぐる。汗に湿った髪の毛が、私の首筋に寄せられた。  胸に手が当たって、私は小さくうめいた。 「兄ちゃん、痛い」  私は抗議する。硬く張り出し た胸は、服がふれるだけで痛い。兄は聞かず、胸から手間でまさぐると、手を離した。 「風呂行ってくるわ」  そう言って、風呂場に向かった。ふくらんだフローリングが、ぎしぎしと粘着質な音を立てていった。 「仕方ないなあ」  私は火を止めると、兄の布団をたたみに向かう。  引き戸一つへだてただけでも、マヒした鼻は戻っているらしい。同じ部屋に寝ている時には気にならなかったにおいに顔をしかめる。  兄の布団はむちゃくちゃに蹴飛ばされ、上に酎ハイの空き缶が無数に転がっていた。  ひとつ、ふたつ、数えながら私はごみ袋に放り込む。また量が増えている。私はごみ袋を壁に投げおくと、布団をたたんだ。  何度も空中に泳がせて、空気を取り込む。においと汗が少しでも消えるように。畳んだ布団を、私のそれの隣によせると、ちゃぶ台を部屋の真ん中に寄せた。  窓を開けて換気する。  鳴り出したサイレンが、部屋に入り込んできた。 「兄ちゃん、今日も遅いんか」 「わからん」  味噌汁をすすりながら、兄は答えた。  兄は毎日働きに出ている。 「そうか」 「ほな、ごはんは作っとくで」  返事はない。もう慣れっこだ。私も味噌汁をすすった。
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