喪心と消沈

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「異物混入騒動の日の夕方だった。その時は騒動を知らずにいたんだが、翌日になって聞いたから覚えている」 「時間が3通目のメールのあとか…チッ…とどめを刺されたか…由奈…」 俺が額を抱えると、牧野先生が専務に聞く。 「湯川専務、二人の話を聞かれましたか?」 「聞いてないが、小嶋くんに娘の結婚をおめでとうと言われてね、いい相手で家族皆で喜んでるというように答えたと思う」 「相手の名前は言わなかったと?」 「言わなかった」 「なるほど…由奈さんは狭間さんが専務のお嬢さんと結婚すると思わされた」 「くっそっ…専務、先生。この女、制裁対象者でしょ?」 「狭間さん。気持ちはわかるが、一旦私に話を預けてくれるか?」 牧野先生が穏やかに俺を見て頷きながら言う。 「先生に預けてどうなる?」 「いくつか手順を踏まないといけないが、狭間さんが今ちょっとヒートアップしているから結論を言いましょうか?」 「はい、お願いします」 「最後まで狭間さんの出番はありません。君の出番は今日ここで終わりです」 「…は?」 「狭間さんはこの件について誰にも話さず、この小嶋さんにも何も話さないでください。もちろん‘制裁’だの‘処分’だの罵声を浴びせることもダメです」 「文句ひとつ言うな、と?」 「そうです。これは絶対です」 「なぜ?明らかにコイツのせいで人の人生が狂ってるでしょうがっ?」 テーブルを蹴らなかった俺を誉めてくれ…由奈…どこにいる?
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