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「曜子……!」  私は曜子を抱きしめる腕の力を強め、曜子の背中を更に引き寄せ。曜子の吐息を、ぬくもりを、柔らかさを。そして、曜子の体内を流れる血液の鼓動すらも、感じ取ろうとしていた。その全てが、そのひとつひとつが、たまらなくいとおしい。私は迷うことなく自分の頭を、曜子のうなじと、左肩の間に埋め。 その白く艶めかしい部分に、自分の歯を立てた。 「あっ……」  曜子が思わず漏らしたその声が、私の胸に突き刺さった。それは間違いなく、私をあの「陶酔感」へ(いざな)ってくれるものだと、私は確信した。それは私の中の欲望を満たすだけではなく、私が愛し、私を愛してくれる人の「願い」を叶えることになる。これ以上の歓びが、満足感が。他にあるだろうか?  私は曜子の肩口に立てた歯に、力を込め。曜子の望み通りに、出来るだけ「痛く」ないように。その部分を、優しく「噛み切った」。  ぶしゅうううううう……!!  たちまち曜子の肩から、大量の血飛沫が流れ出す。だがその赤い飛沫さえも、私には喉を潤す最良の潮流であり、曜子にとっても愛するものに「食された」、何よりの証となるものだった。 「あああ、あなた、あなた!!」  曜子は左肩から腹部にかけて、着ていた白いブラウスを真っ赤に染め上げながら、私に抱き付いて来た。私は更に、もっと曜子の愛に応えようと。次に右肩に噛みつき、それからブラウスを引き千切って、その胸元に齧りついた。 「ああああああ……!」  曜子の声は、悲鳴のようであって、悲鳴ではなく。それは恐らく、積年の想いがようやく叶えられた、これ以上ない歓びの現れなのだろう。私はそう信じ、そして自分が今「していること」への畏れも疑問も、とうの昔に消し飛んでいた。  私が曜子の願いを叶える度に、曜子は赤く染まっていき。そして私も同様に、全身を血の赤に染め、浸しきっていた。曜子はうっとりとした笑みを浮べながら、私に食され。私は、、愛する妻を、食し続けた。  そして、その夜。  私と曜子は、「ひとつ」になった。
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