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「なぁ、なんか怒ってる?」
「別に…」
「その言い方がもう怒ってんじゃん!理由を言ってくんねーとわかんないんだけど」
「だから別になにもないから」
ぷいと顔を逸らした私の背後から、大きな溜息が聞こえる。
別に彼は悪くない。私が勝手に怒ってるだけ。
嫌な態度を取ってる自覚はあるけど、どうしても素直になれない。
自分の態度のせいなのに、溜息をつかれたことに鼻の奥がツンと痛くなって俯いた。
「俺はおまえだけだよ」
いきなり背中から抱きしめられて、耳朶にキスをしながら囁かれた。
「ホントはなんで拗ねてるのか知ってる。あの子が俺にベタベタしてきたのを見たんだろ?おまえに気づいて声かけようと思ったら、走って行っちまったもんな。俺、はっきりと迷惑だって言った。俺には好きな子がいるから、って」
「…好きな子って、誰?」
「今、俺の腕の中で頬を膨らませてる可愛い子」
「別に可愛くない…」
「俺には世界一可愛く見える。なぁ、好きだよ。今から生クリームたっぷりのパンケーキ食いに行こうか」
「パンケーキ…。甘いの嫌いじゃないの?」
「嫌いだよ。でも、パンケーキを嬉しそうに食べた後の甘いおまえは好きだ。ほら、パンケーキ奢るから、機嫌直して?」
「生クリーム増し増しにしてもいい?」
「もちろん」
「じゃあ…許す」
彼が笑って今度は頬にキスをする。そして私の手を引いて歩き出した。
少し前を歩く彼の背中を、目を細めて見る。
彼は勘違いをしている。彼にベタベタとしてきたあの子のことなんて、何とも思っていない。わざとらしく甘えた声を出してバカみたいだと呆れて見ていただけだ。
私が怒ったのは。
彼から数メートル離れた場所にいた彼の妹を見つけたから。彼女が私に気づいて意味ありげに笑ったから。
彼は私が知らないと思ってるみたいだけど、私は知っている。兄妹が愛し合っていることを。私がただのカモフラージュだということを。
だけど兄妹で愛し合うなんて不毛でしょ?早く諦めてよ。なのに妹は、ことある事に彼との仲を見せつけてきて。腹が立つ。絶対に許さない。先ほども彼とお揃いのネックレスを指に巻きつけて見せてきた。嫌な女だ。
ベタベタと寄ってきた女から逃げた彼は、妹に気づかなかったらしく私を追いかけてきた。
さて、二人で甘いパンケーキを食べた後は、どうしようか。そうだ、いい事を思いついた。本当は危険日だけど、安全日だと嘘をついてセックスをしよう。妹では絶対に作れない彼の子供を、私が作ってあげる。もしも子供ができたら、お願いだから別れてね。それでも許してあげないけど。
(終)
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