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「條太郎、條太郎!」
「大丈夫、聞こえる?」
揺り起こされ、條太郎が目を覚ます。
僅かずつ開けていく視界の中央には、道慈と蘭がいた。
信じ難い光景に遭った彼は慌てて跳び起きる。
「二人とも、生きてる……! 怪我はない?」
変なことを言うもんだと、二人は小首を傾ける。
「全然。でも、何か壮絶な体験をしたような気がするんだけど、
はっきり思い出せなくてな……」
「私も! 憶えてるようで憶えてない不思議な感覚……」
強引に二人を抱き寄せる條太郎。
突然の抱擁に、道慈と蘭は互いを見合って微笑する。
「そんなに、RS8が手に入ったのが嬉しいの?」
「RS8?」
「條太郎の横にあったんだぜ」
「僕の?」
條太郎がすぐに横を向けば、
夢にまで見たRS8本体の新品がケースごと座っていた。
――あの射的、やっぱ夢じゃなかったんだ……。
「ねぇ、見て見て!」
蘭の指差す天空に打上花火が大輪を咲かす。
色鮮やかな閃光に、條太郎はしばし酔い痴れた。
夏の夜を股に掛ける爆音の中で、波乱万丈の記憶影像を振り返る。
今回の射的は惨たらしい事件であると同時に、
自分を成長させてくれる類い稀なきっかけでもあった。
仲間に助けられてばかりだった青年が、仲間を想って闘ったのだ。
花火の煌めきを浴びた道慈と蘭の横顔をふと見やると、
遂に條太郎は涙を堪えきれなくなった。
「……本当によかった」
今度は誰もからかわない。
彼の両肩に、温もりに満ちた手の平がそっと乗っかった。
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