桃ってこの世で一番めったらうまいですよね?

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桃ってこの世で一番めったらうまいですよね?

「ほな、また来いや」 「うん……」  教会を後にしてから自分の家の方角に向かう。今日はなんだか騒がしい1日だった。いや、俺の周りにいる面子(メンツ)が頭おかしい奴らが多いからか。こんなのに赤子の頃から囲まれている俺って……そこまで考えて、思考を止めた。また、出てきてしまう。その思考の先にはいつも親父がいる。だから、あんまり考えたくない。歩道の隅に寄って、白線の内側に落ちてる小石を蹴飛ばして歩いた。  俺が白線の内側にいられるのは、家の外だけだ。 「弓春くん」 昼間とは打って変わって家の空気が変わっている。2階の広間に時間通りに着くと、親父の側近の宇利伏(うりふし)がやんわりと膝を折って声をかけてきた。既に事務所の神座に座っている親父の斜め左の席に座る。4人がけのソファ席の外れ、所謂お誕生日席というやつだ。そこに親父が座る。親父の右側には親父のペット専用席が設けられていた。そこでは、るあがミルクティーを飲みながら座っている。ああ、ここでまた俺は軽く絶望する。こいつ、会議にまでペット連れてくんのかよ。しかも、一番右側……。いや、考えるな。今は自分のことに集中しろ。 「若、いらっしゃいました」 「通せ」  側近の宇利伏が事務所の扉を開ける。向こう側から、糸目の男が現れた。シルバーのスーツに身を包み、首には黒のファーマフラーをかけている。洗練された印象を受ける。背はそこまで高くない。175の俺と同じくらいか。その後ろから、紙っぺらみたいに薄い身体の男が見えた。背も150センチくらいしかねえんじゃねえのかな。部屋に入った瞬間、その背の低い、黒髪の男の目が俺を見据えた。ばち、と交差する視線が、痛い。値踏みされている、と思った。  拒否せず、人を殺す目だと思った。
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