第一話 子猫に人気の食堂

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第一話 子猫に人気の食堂

 「ネェこの辺りに風変わりな猫カフェがあるって噂、聞いてる?」  幼馴染の赤崎紅音(アカサキ アカネ)が何気なく、聞いてくるので、 僕は、彼女の期待を裏切るかもしれないと言う気持ちなんか一ミリも感じずに、答えた。  「知っているよ。でも、あそこ、猫カフェじゃないよ。子猫食堂だよ。」   「こども食堂?」  僕は、ゆっくりと彼女の怒りに火をつけないように丁寧に説明した。    「響きもコンセプトもほぼほぼ同じだけど、こども食堂ではなく、   こねこ食堂だと。こねこ」   「だから、そこに行けば子猫ちゃんと一緒にご飯を食べられるのよね、    だったら猫カフェやん。」   「違うよー、そこでは、選ばれた人が子猫のご飯を食べさせてあげること    はできるけど、人間の食べるご飯はないよ。まぁ、一緒に食事している    気分を堪能したいなら、猫のご飯を食べてもいいけど、美味いとは思え    ないな。」   「なんで、カイ君は、知ったような口を聞くわけ。」 このカイとは、僕の名前で、蒼井海(アオイカイ)というのが僕の名前だ。 「だって、あの店で僕はアルバイトしてるから。朝と夕方だけどね。」  「何、それ、初耳、今まで隠してたわけ?」   「イヤイヤ、それは誤解でしょ、誤解。    親戚の手伝いとかボランティアみたいなものだし、」   アカネが、妙に物欲しげに、   「私も子猫ちゃんにご飯あげたい。」と作り笑顔でささやく。   「うーん、多分ダメだと思う。」と僕はかわした。   さらに僕は、付け加えた。   「お客さんからお金をもらって、もてなす猫カフェじゃなくて、    そもそも子猫がお客さんなのが子猫食堂だからね。    だから、できる人とできない人の基準が厳しいんだ。」  僕は、後で困ったことにならないように念を押した。   「まず、猫のことを考えて、ご飯を作ってくるか、購入して持ってくる    こと。これは、手間ひまお金があればクリアできるけど、    何より求められる素養は、自分の自己満足ではなく、子猫のために    ご飯をあげること。ほとんどの人は、この条件で通らないんだ。    自己満足を満たしたいなら、猫カフェに行った方がいいし、    ミカンさんの言う通りだと思う。」   「ミカンって誰よ?」   「英美香(ハナブサ ミカ)、子猫食堂のオーナーで、スタッフは    みんなミカンさんと呼んでいるんだ。」    僕は言葉を選びながら、    「アカネちゃんは、子猫はかわいい、だからご飯あげて、     自分が癒されたい、と考えているよね。     これは、猫カフェならOKだよ。     でもね、子猫食堂は、お腹を空かせている子猫に     好きな食べ物をたくさん食べさせてもらうための場所だよ。     だから、自分の癒しとか満足は入らないんだ。」   「カイ君は、OKだったの。」   「そうみたいだね。ミカンさんの判断だから。」     数日後の夕方、分かりやすい尾行でレッドがついてくる。小学校時代のニックネームで、当時の彼女のヘアースタイルから、彼女はツインレッド、僕は名前からオーシャンブルーだったが、僕は今でも彼女が無茶なことをする時に、つい、レッドと呼んでしまう。  「どうしよう、あの場所は路地が入り組んでいるから、   まくこともできるけど、、」と思っていると、   ミカンさんからLINEが来た。   「先日話していたガールフレンド、見学だけならいいわよ。」  まるで僕の心でも見透かしたようなLINEだった。少し歩いて、 急に右に曲がり、路地を回って、彼女の後ろについた。キョロキョロと探しているレッドの背中から声をかけた。 そしてわざとらしく、  「アカネちゃん、こんなところで何してんの?」と声をかけた。 不意をつかれたのか、上ずった声で、  「ついさっき、カイ君を見かけたので、声をかけようかなって、   思ってた。」   心の中では、  「20分つけ回すのは、ついさっきとは言わんでしょう」と思いながら、   「今から、夕御飯タイムなので子猫食堂に行くけど、見学する?」   と言うと、   「そんなにカイ君が誘うなら、言ってあげてもいいわよ。」   とレッドが顔を紅潮させて言う。   僕は、  「ただし、いくつかルールを守って!食堂内にいる時は、一切の質問は   しないで!僕でわかることは、後で全て説明する。でも、僕たちスタッフ   もミカンさんもご飯タイムは真剣モードなんだ。だから、話しかけること   も禁止。子猫を触ったり、声をかけることも禁止。猫カフェみたいにお客   さんが楽しむ場所じゃない。子猫をもてなす場所、これでも来る?」   彼女は、無言で頷いた。   大通りから路地を二つ進むと大きな煙突のある古い建物に着いた。元々は 銭湯だった場所を部分リノベして、オーナーが子猫使っている。外観は、その 周囲の古びた昭和の雰囲気を残している民家とマッチしているが、中は小学校 に昔あった給食準備室のように清潔な場所になっている。   彼女には釘を刺しているが、まず、外と中のギャップに驚くことだろう。 夕方5時からちょうど一時間半、目まぐるしくやってきては満足げにご飯を食べ、出ていく子猫たちの様子や、言葉を交わすことなく、子猫の望むご飯を出していくスタッフ、その全体を二階のデッキから見下ろして、場合によってはスタッフが着用しているヘッドセットへ指示をだす。アカネちゃんは、その光景を、見学用に用意されたい椅子に座り、子猫たちに、その体臭が勘づかれないようにウィンドウ越しに見学した。夕御飯タイム終了である。 ミカンさんは、帰り際に一言、アカネちゃんに、  「聞きたいことはカイに聞いてくれ。   でも、カイも知らないことがあるからね!」  と言うと、奥の部屋に消えていった。  とうぜん、困ったことが僕に降りかかってきた。  質問の山が嵐のように降り注いだ。  まずは愚痴の嵐だ。 「何、一時間半の放置して、お茶ぐらい出しなさいよ!  何、あのオーナーの態度、挨拶もなし、それに何で私だけ  ガラス越しなの、私はバイ菌扱いなわけ」  まぁ、愚痴にはなだめるしか手がないが、質問には、できるだけ答えて  あげようと思う。    「ネェ何匹の子猫飼っているの?     私、数えたけど200匹を超えたところでギブアップしたわよ。     それにあの子猫たち次から次へと来てご飯を食べたけど、     どこから来て、どこに行くのよ?     あれだけの子猫が庭にでたら、うるさいし、臭いはずなのに、     外からは鳴き声聞こえないし、全然、臭わないけど何で?     何で大人のネコはいないの?     それに何で、スタッフは、ネコとコミュニケーションが取れるの?     まさか、あのヘッドセット、猫語翻訳機なの?      それとね、あのオーナー、何でずっと泣いていたの?」     最後の質問は、答えようがない。その答えを僕も知らないのだ。    だ
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