プロローグ

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プロローグ

 月のない夜空に浮かぶ、巨大な黒いカタマリ。  その表面はボコリ、ボコリとうごめいて、よく見ると手や足、そして人の顔のかたちをしていた。 「これは、たくさんの人の集合体なんだ……」  おぞましい。けれど、悲しい。  その中には、救わなきゃいけない魂もある。  怖いけど、この霊たちを浄化できるのは、今はわたししかいないんだ!  わたしは勇気を振りしぼって、巨大なキツネにまたがって空を飛び、浮かんでいる黒いカタマリに近づいた。 「祓えたまえ、清めたまえ……あっ」  わたしが唱える祓詞(はらえことば)の途中で、黒いカタマリの一部が分裂して襲いかかってきた。  よけられない! ぶつかる!   そう思った時、 「おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まにはんどま じんばら はらばりたや うん!」  という声とともに、カタマリが消滅した。 「龍司!」  幼なじみの龍司が、わたしと同じく大きなキツネに乗って助けに来てくれた。 「おれがアレの動きを止めるから、スズ香は浄化させろよ」 「うん、わかった!」  龍司はさっきとはまた違う印をつくり、真言を唱えると、大きいカタマリの動きが鈍くなった。 「スズ香、今だ!」  わたしはお祓いの力を強めるオオヌサを両手で持って構えた。気持ちを集中させる。  そして祓詞を唱えようとしたとき、背後から気配がした。  振り返ると、死角にあったカタマリが迫っていた。 「きゃっ」  わたしはあわてて、オオヌサをそちらに振った。  すると、そのカタマリが消滅した代わりに、オオヌサの上半分が折れて、崖の奥底に落ちていった。 「オオヌサが壊れちゃった!」  これじゃ、とても浄化なんてできない。  どうしよう。悪霊化してしまった魂や、その中にとらわれている魂。みんな助けたいのに。  わたしには、もう、どうすることもできないの……?
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