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こんな場で、とは思うが、この場には我々2人と、王族の登場に咄嗟に膝をつき、首を垂れる魔術科会長しかいない。
この際、彼にならどうとでも言い訳ができそうだ。
「シオン、待ってるから、ちゃんとやりたいことやっておいで」
耳元で囁かれたその言葉に、チラッとその顔を見上げる。
先ほどまでとは打って変わって、こちらの意思を尊重するかのような言葉だ。
どんな心境の変化だろう。
まぁ、大方誰かに何かを言われたか。
となると、そんなことが王子様に言えるのは先生くらいだろう。
あの人も魔術師らしくない魔術師だから。
「君があれだけならないと否定していた魔騎士になるだなんて言うから、『やっぱりならない』と言わないかとあんなことを言ったんだ」
首元に顔を埋めながら言う彼は、いずれ国のトップになる人だとは思えないくらい弱々しく呟いた。
「君が覚悟を決めたんだから、その覚悟をきちんと受け止めるべきだと、レオルドに怒られたよ」
やはり、王子様に説教垂れたのは先生だったらしい。
礼儀は弁えているくせに、王族に意見するだなんて、本当、魔術師らしくないな、と笑えてくる。
だからこそ、サラッと魔騎士を辞めて教師なんていう器に収まっているのだろうが。
「君が本当に魔騎士になるというのなら、今はそれしか選択肢が無いというのなら、私も覚悟を決めようと思ったんだ」
王子様の、覚悟?
一体、何を覚悟することがあるというのだ。
この人はこの国の王子で。
いずれ国王となる人。
首元に埋まっていた顔が温もりと共に離れていく。
目を見て聞いた方が良さそうな話だと判断し、彼に向き直ると、伸びてきた手に頬を撫でられた。
「私は、この国の王となって、魔騎士団の在り方を……、魔術師の在り方を変える。それが私の覚悟だ」
否応なしに視界に入った黄金が、いつもより輝いて見えたのは彼の決意の表れか。
強い意志を含んだ綺麗な金に真っ直ぐ見つめられ、その覚悟が誰のためかわからないほど鈍くはない。
「楽しみにしています」
貴方が、この国を変えてくれることを。
「それまで、目移りしちゃいけないよ?君は私の魔騎士なんだから」
「貴方の魔騎士になるとは言ってませんが」
ふわっと冗談めかした王子様に便乗してこちらも軽口で返す。
「貴方の思い描く、生まれ変わったこの国の王の騎士になら、なっても良いかも、とは思います」
そんな本音を付け足して。
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