いつか本当の

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いつか本当の

 帰り道、泣き腫らした目で夕暮れ空の下を二人で歩いた。こんな日に限って夕日が綺麗で、今の私たちにそれはちょっと眩しすぎた。 「悔しいね」 「うん。でも、やれるだけのことはやった。幸い私たちは中2。まだチャンスはある」  彼女は相変わらず不器用な日本語を使う。だけど、それがなぜか安心した。嘘がない本当の言葉なのだと思う。 「そういえばあの時、トイレでなんて言おうとしたの?」 ──してるよ。顔に出ないだけ。でも……  結果発表を聞きに行く前、瀬川が私に言いかけた言葉を反芻する。 「でも……結果はどうであれ、私は山野さ……陽子ちゃんと仲良くなれたことが嬉しい。これから本当の親友になれたら、もっと嬉しい」  彼女はほんのり耳を赤くして、「じゃあこっちだから」と、曲がり角を曲がった。  なんだそれ。  張り詰めていた糸が切れたみたいに、全身の力が抜けた。ふと、心の奥底で煮えたぎっていた彼女への憎しみがきれいさっぱり消えていることに気づいた。彼女を絶対ゆるさないって気持ちも、とっくに。 「ありがと、弓月」  いつか私たち、心をゆるせる親友になれるかな。  こちらを一切振り返ることなく、クールに去って行く彼女の背中にそっと呟いた。これからやるべきことは山ほどある。たぶん、青春はあっという間に過ぎる。残された時間はわずかだ。明日は彼女より早く朝練に行こう。そう思った。
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