赤に染まった駄作でも

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「許さないわ!」  液晶に映ったドラマの中で、華美な格好をしたカップルが別れ話をしている。彼らはメインディッシュの小ぶりのステーキに手を付けず、ヒロインだけが逃げるようにレストランから出ていった。 「君がいない生活なんて、考えられないよ」  主人公はそう呟くと、錠剤を2粒飲んで永遠の眠りにつく。そうしてエンドロールを迎える。僕は最後まで見ずに消した。 「駄作だったな」  レストランの中で自殺するなんて、周りの人を何も考えていない。死ぬ理由も貧相で面白みが無いし、映画を見終わったあとの余韻も全く無い。何度眠たくなったか、数えるのも億劫なほどだった。 「何でこんな映画見たんだろう……?」  後悔すら湧き上がる程の圧倒的なロークオリティだった。僕はDVDプレーヤーからそれを取り出して、プラスチックの容器にしまう。2度と触れることも無いだろう。 「ご飯出来たわよー。降りてきなさい」  1階のリビングから母に呼ばれる。日曜日の昼食は大体3色丼で、敷き詰められたご飯の上にキャベツとひき肉と卵が乗っている。その味を何百回と味わっている僕は、溜息をつきながらスプーンを持った。 「映画、どうだった?」 「あんまり面白く無かったよ」 「そう?母さんの時代だとあの映画が賞を総ナメにしててね……」  過去を懐かしむ様に母は話す。現在に生きる僕は曖昧な相槌を打ちながら、ふと考える。  「許さない」と言ったあの台詞。主人公が自分の秘密を打ち明けた時に言われた物だが、どうしても思う所があった。あの時主人公は秘密を隠した方が良かった。そうすれば2人は分かたれずに、主人公が死ぬ事も無かったのだ。映画の展開的にそうするしか無いと分かっていても。  秘密なんて、打ち明けない方が良いのだ。
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