常世の森の魔女

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 ああ、そういえば担任の谷川先生が帰りのホームルームで言ってたっけ。六年の二階フロアには行かないように……って。確か、保健所の人が来て消毒をするとかなんとか。そんなことを言っていたのを思い出した。  僕は、石畳に転がる小石を蹴飛ばした。小石は勢いよく転がり、民家の板塀にぶつかり跳ね返った。 「まだ誰も熱が下がってないんだって」 「ふうん、そうなんだ……ま、関係ないじゃん」 「でも、感染ったらどうするの」 「感染らないよ」 「そんなのわからないじゃない」 前を歩くハナのおかっぱ髪が跳ねた。体よりも大きな赤いランドセルが、ハナが歩くたびに上下に揺れていた。ランドセルにぶら下がる、犬の人形もまた左右に大きく揺れた。  僕が、感染らないと言ったことには理由がある。高熱を出した原因を知っていたからだ。彼らはみんな、常世の森へと行ったのだ。常世の森は永遠の場所。つまり、あの世だ。
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