7.ライムグリーンの立方格子

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

7.ライムグリーンの立方格子

 暗闇の中にライムグリーンの線。  方眼紙のように等間隔。公園にあるジャングルジムの如く、上にも下にも果てなく連なっている。 「やっとみつけましたよ」  声の主は狐乃音。呼びかける先には、何者かがいる。互いに宙に浮かんでいるかのよう。  あの後。狐乃音は熱中症になりかけながらどうにか持ち直して、エアコンの効いた部屋で改めて瞑想を行ったのだ。  足跡を辿るのになかなか苦労した。そして知った。目的の人物……もとより、人かどうかすら定かではない者は、現世にはいないのだと。とはいえ、死んでいるわけでもなかった。 「まさか、私の意識の中に入りこんでいただなんて、思いませんでした」  夢の世界とも例えられるところ。  そこは宇宙と例えられる程に大きな領域だから、狐乃音は立法格子を敷き詰めて番地分けを行った。そしてようやくのことで気配を察し、目的の番地へと近づいたのだ。  狐乃音は、未だ背を見せている黒いシルエットの後ろに近づいて、そして言った。 「私の声を返してください」  夢の中では、狐乃音も声を出すことができるようだった。  それはびくっと震えた。 「え、えっと」  そして確かに人の声を発した。困ったような様子の声を。 「お兄さんとお話しできないのが、とても辛いのです。お願いです。返してください!」 「あ、あの……」  戸惑う様子。けれど狐乃音は精神的余裕がなかった。対話を続けられればもう少し穏やかに済んだかもしれない。 「返していただけないというのなら、仕方がありません」  狐乃音は忍者が背中から刀を抜くように、虫取り網を取り出した。山野を駆け回る、夏休みの子供のよう。 「無理矢理にでも、返してもらいますっ!」 「ひっ!」  それは本能的に危機を察したのか、逃げ出した。とても素早い動きだった。 「待ちなさあああああいっ!」 「わあああああああああっ!」  追いかけっこが始まった。  暗闇だった世界はいつしか色が付き、建物や景色が見え始めた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!