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7.ライムグリーンの立方格子
暗闇の中にライムグリーンの線。
方眼紙のように等間隔。公園にあるジャングルジムの如く、上にも下にも果てなく連なっている。
「やっとみつけましたよ」
声の主は狐乃音。呼びかける先には、何者かがいる。互いに宙に浮かんでいるかのよう。
あの後。狐乃音は熱中症になりかけながらどうにか持ち直して、エアコンの効いた部屋で改めて瞑想を行ったのだ。
足跡を辿るのになかなか苦労した。そして知った。目的の人物……もとより、人かどうかすら定かではない者は、現世にはいないのだと。とはいえ、死んでいるわけでもなかった。
「まさか、私の意識の中に入りこんでいただなんて、思いませんでした」
夢の世界とも例えられるところ。
そこは宇宙と例えられる程に大きな領域だから、狐乃音は立法格子を敷き詰めて番地分けを行った。そしてようやくのことで気配を察し、目的の番地へと近づいたのだ。
狐乃音は、未だ背を見せている黒いシルエットの後ろに近づいて、そして言った。
「私の声を返してください」
夢の中では、狐乃音も声を出すことができるようだった。
それはびくっと震えた。
「え、えっと」
そして確かに人の声を発した。困ったような様子の声を。
「お兄さんとお話しできないのが、とても辛いのです。お願いです。返してください!」
「あ、あの……」
戸惑う様子。けれど狐乃音は精神的余裕がなかった。対話を続けられればもう少し穏やかに済んだかもしれない。
「返していただけないというのなら、仕方がありません」
狐乃音は忍者が背中から刀を抜くように、虫取り網を取り出した。山野を駆け回る、夏休みの子供のよう。
「無理矢理にでも、返してもらいますっ!」
「ひっ!」
それは本能的に危機を察したのか、逃げ出した。とても素早い動きだった。
「待ちなさあああああいっ!」
「わあああああああああっ!」
追いかけっこが始まった。
暗闇だった世界はいつしか色が付き、建物や景色が見え始めた。
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