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この地方の盛夏を彼らは乗り切れない。
だからこそ、生きる術を求めて人工的な冷気溢れる街中へと繰り出してくる。
かろうじて動ける夜を利用し、
冷蔵庫や冷凍ケースへ潜り込むのだ。
愛らしい冬の風物詩が、こうして厄介者となる。
居着かれた冷蔵庫は夏中冷気を貪られ、
ゆきうさぎはそれこそ命懸けの粘り強さでてこでも外へ出てこない。
だから、あたしもこのまま冷蔵庫は開けられない。
一度滑り込まれたら最後、
今夏の電気代は見るも恐ろしいことになる。
一人暮らしのOLにそんな財力はない。
しかしながら、あたしは今是が非でも──
それも冷凍室を開けねばならなかった。
なぜって、アイスを買っていたからである。
ビッグサイズのアイスバーは夏限定のスイカ味。
頑張った日のご褒美と決めている、
とっておきの楽しみだ。
本物のスイカに似せたシャリシャリ食感を溶かすなどもってのほか、ドライアイスが健在であるうちに、冷凍室へ収めなくては。
じり。
冷蔵庫に一歩近付く。
ゆきうさぎは動かない。
冷蔵でも冷凍でも、開いた瞬間に飛び込めるベストポジションをキープしている。
けれども我が家の冷蔵庫はスマートだ。
ゆきうさぎが陣取っているのは取っ手というよりただのくぼみで、身体の半分ほどはもちもちと外へはみ出ている。
なぜにそこまで平然としていられるのか疑問になる危なっかしさ。
もっと別の手立てはなかったの?
あー、可愛い。
このフォルムなら、
虫相手にはできないことだってできる。
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