五月祭

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五月祭

ドイツの片田舎に、今年も春がやってきた。 村人たちは総出で祭の準備に取り掛かっていた。 この村の五月祭では、12歳を迎える娘の中から天の花嫁(ウッツフェルト ブリュットリ)が選ばれる。 花嫁に扮した少女は、10人ほどのお伴をしたがえて村の家々をまわる。お伴の少女はかごを下げ天の花嫁の訪れを村の家々に告げて、かごに果物などの供物を受け取る。天の花嫁は感謝を表すと同時にその家を祝福する。 一方で「冬」を表す少年たちは黒い服を着て体中に縄を巻き別の地区を歩いてくる。彼らもまた家々を廻り口上を述べて贈り物を受け取る。 正午になると夏の象徴「天の花嫁」と冬を象る「少年たち」は教会で落ち合って決着をつける。「冬」の持つブナの木の枝を花嫁が3本折り取ると、天の花嫁の勝ちとなる……そんな風習が残っていた。 村の少女たちにとって「天の花嫁」に選ばれることはこの上ない(ほまれ)であり、選ばれた娘は村の少女たちの羨望を一身に集める存在だった。
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