グッバイ花火

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グッバイ花火

 何を好きであろうと間違っていないはずなのに、「好き」の模範解答を探してしまう自分がいた。  地元から少し離れた私立高校に進学した私は、知り合いが誰もいない学校で何とか友達を作ろうと必死だった。教室という狭い社会で一人になるのは怖いし、浮きたくもない。とりあえず席の近い子に沢山話しかけ、何とか一人ぼっちを回避した。桜を眺める余裕なんてなく、気づけば新緑に変わり、今ではその木に蝉が止まっている。 「夏美、おはよう」  クラスメートの環奈と美咲が手を振ってきた。彼女たちこそ私が必死に話しかけて仲良くなった二人だ。いつもチャイムが鳴るギリギリでやってくる二人は、今日もどこか眠そうに目を擦っている。 「二人とも、おはよう」 「あれ?」  環奈が驚いたように呟いて、私の髪の毛の長さを指で測った。 「前から思ってたけど、夏美の髪伸びたね」  たしかに、入学当初は顎くらいの長さだったが、七月現在では肩を少し越していた。 「うん。だけど今度、ショートにしようと思って。長いの飽きてきちゃったから」 「へえ。どのくらい?」 「このくらい」  私がスマホに保存していたショートカットの女性の写真を見せた。後ろを刈り上げて、耳より上あたりでさっぱりと短く切ったベリーショート。昔から私の憧れだった。 「え。これは短すぎるよ」  環奈と美咲が眉間に皺を寄せて、スマホを覗き込む。 「夏美には似合わないんじゃない?」 「ベリーショートは男の子っぽいよ。男ウケ悪いし。それに、今の長さの方が女の子っぽくて可愛いと思う」 「そうだよね」  私は曖昧な顔をして頷いた。その後、二人は髪の手入れ方法について熱心に話し始めた。私は一人、スマホの画面に目を落とす。  たしかに、このモデルさんみたいに似合うかは分からない……だけど、私はこれが好きだ。男の子っぽいとか、女の子っぽいとか、そういうのは関係なしに。心では思っていたのに、何故だか言えなかった。  人にどう言われても、構わず自分の好きを貫きたいけど、人の目ばかりが気になって仕方がない。人が良いと思わないものを好きと言うのに、どうしてこんなに勇気が必要なんだろう。  結局、美容院の予約を取れないままスマホの電源を切る。 ……私は自分でも情けないくらい臆病で、さらけ出すのが怖かった。
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