真夏の雪

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 寒さで目が覚めた。僕は冷たいコンクリートの上に横たわっている。真っ暗で何も見えない。誰かと手をつないでいる感覚がある。僕は上半身を起こし、ズボンのポッケからスマホを取り出して画面の薄明かりで周囲を照らした。手をつないでいたのは美咲で、僕たちは崩れたコンクリートのがれきの中に閉じ込めらていた。どうしてこうなったかはわからない。体中が痛い。でも僕は大きなけがはしていないようだった。僕は目を閉じたままの美咲の肩をゆすった。   「美咲!」  小さな咳をして、美咲が目を開けた。 「・・・寒い」  体を起こし身震いしながら美咲が言った。物音ひとつないがれきの中で僕たちはスマホの画面の薄明かりでお互いの顔を確かめた。僕達のスマホの画面は割れてひびが入っていて、圏外で、バッテリーも切れかかっていた。 「ここはどこ? なんだか焦げ臭い。一体何があったの?」    美咲が僕に聞いた。僕にだってわかるはずがない。 「美咲、けがは?」 「体中が痛い」  僕はスマホのライトで周囲を照らした。頭上に迫る崩れたコンクリート。倒れた柱や壁。ところどころに電気の配線が見える。 「とにかくここから出よう」 「私たちって、地下にいる?」  僕は思い出した。二人で昼下がりの駅地下のショッピングモールを見て回っていた。そして大きな音と揺れのあと天井が落ちてきて、それから記憶がなくなった。  美咲がスマホの画面を見た。 「まる一日経ってる。でも、なんでこんなに寒いの? 真夏なのに」 「きっと地下だからだよ」  僕たちはがれきの隙間を見つけて移動した。途中で何人もが、がれきに挟まれて息を引き取っている惨状を目にした。  僕たちはスマホのライトを頼りに、がれきの上を這ったり、よじ登って地上を目指した。気温がどんどん下がっていくのがわかる。凍えるような寒さ。美咲のスマホのバッテリーが切れた。 「誰かいませんか!? 誰か!」  がれきの中に響き渡る彼女の声。でも反応はなかった。  僕たちは途中でがれきの中から拾った売り物の服をまとい、寒さに対抗した。  僕が先に地上に出た。真昼のはずが、厚い雲が空を覆い、まるで夜のような景色になっていた。強い風に流されながら雪が空からごうごうと降り続いている。立派な駅舎も高層ビルも何もかも地上の建物は吹き飛ばされて、がれきだけが周囲に広がっていた。延々と続くがれきの山に灰色の雪が石綿のように降り積もっている。 「真夏の雪・・・? どうして?」  地上の光景を見た美咲が言った。僕はがれきに積もった灰色の雪で雪玉をつくり放り投げた。 「地下に戻ろう」 「戻ってどうするの?」 「助けが来るまで生き伸びよう」  僕は無理やり笑顔を作って言った。 「うん」  美咲は戸惑いを隠しきれないままうなづいた。 「うん!」    美咲はもう一度うなづいたあと、僕に笑顔を見せた。       『真夏の雪』 完    
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