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内心では脅えもあった。
本当に、勝てるのか?
その時、小次郎がその長い刀を抜き、鞘を投げ捨てた。
おおっ! 捨てた、捨てたっ! よし、ここで言うのだな、元村殿!
胸が高鳴る。そして――。
「小次郎破れたりっ!」
大声で言い放つ武蔵。
「なに?」
キッと鋭い視線を突きつけてくる小次郎。
「勝つ身であればなにゆえ鞘を捨てる? 惜しや小次郎、死を急ぐかっ!」
「黙れぃっ!」
怒りを込めた小次郎の一の太刀。それを武蔵は、見事なバッティングスイングではじき返した。
あの後も鍛錬に採り入れ、しっかり身につけていたのだ。
見たことのない太刀筋に、小次郎の表情が驚きに染まる。
即座に飛んだ武蔵は、バットを振りおろした。小次郎の太刀と交錯し、鉢巻が切れる。
次の瞬間、倒れたのは小次郎だった。
決着がつくと、武蔵は急ぎ小舟に飛び乗り、舟島を離れていく。
佐々木小次郎、我が生涯一の強敵であった……。
まだ戦いの興奮に震える体を落ち着かせるよう、深く息をついた。
そっと、バットを水面につけて手を放す。
かたじけない、元村殿……。
流れていくバットを眺めていると、波間にあの不思議な男の顔が映ったような気がした。
Fin
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