本編

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「お疲れ様でーす!」 「お、さとみん! おかえり♪ 無事、逃げ切ったみたいだね!」 役員室へ戻ってきた俺に対して、綾弥斗くんが迎えてくれた。 会長や副会長は、これからの流れについて話し合っているようだ。メインの鬼ごっこは終わった。あとは、閉会式をして終了になる。 逃げきったものは授業の免除、鬼に捕まったものは鬼と共に1日を過ごす。 まぁ、それぞれ免除するタイミングや、1日過ごすタイミングは生徒たちに委ねられるため、特に生徒会が口出しすることはない。 そこら辺は風紀と教師陣が、仕切ってくれる手筈だ。 「会長、副会長、お疲れ様です。なにか、手伝える事はありますか?」 「山谷くん、お疲れ様です。今の所、大丈夫ですよ」 「怜海……お前……」 ニッコニコの副会長に対して会長は、ボロボロになっている。あー、あれからずっと制限時間まで逃げ切った感じなのか……? 「ふふふ、山谷くんのおかげで、この男を無事捕まえることが出来ました。龍雅の1日を使って、積まれていた生徒会の仕事を一気に片付けさせます」 副会長は機嫌良さげに言い切ると、閉会式の準備へ向かった。そうかぁ、会長は鬼でありながら捕まえられたのか……お気の毒に。 「会長! 頑張ってください!」 「……貴様」 ニコリと応援を残してとっとと逃げようとするが、会長に捕まりアイアンクローで締めあげられる。 「あだだだだッ! 『貴様』って……どんな悪役ですかっ! 痛ぁぁ!」 「フン……まあ、少なくとも他の奴らに捕まって、無駄な1日を過ごす事にならなかっただけ良しとする」 「さいですか……」 俺を離しながら、上から目線クオリティな会長は椅子に座った。 その様子を何となく観察する俺。 やっぱり会長はボロボロで、幾つもの死闘を繰り広げて来たのだろう。 しっかし、副会長が会長を捕まえるとは…… 会長×副会長の妄想が捗るな? ▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀ あれだけ盛り上がった新入生歓迎会は、熱が冷めたように呆気なく終わった。 今は各委員会の手が空いている人が、体育館やその他の設備を片付けしている。 俺はと云うと書記の柳田さんと、風紀委員長の西園寺様と共に学園内の教室を回っている。 荒らされた教室や所謂(いわゆる)、強姦にあった生徒が取り残されていないかを見回っている。 前に親衛隊絡みの事件が何件も起きている為、こうして生徒会と風紀が協力して見回ることになったらしい。 とはいえ─── 「……」 「……」 「……スッ──、」 無言だ。 めちゃくちゃ、無言なのだ。 いや、別にぺちゃくちゃ話す必要は無いんだけど……それにしても気まずい。 これは多少の危険を呑み込んで、会長と朝比奈さんの方に着くべきだったか? 話し掛ければ柳田さんは、お話してくれるだろう。 多分……でも、風紀委員長の方は『私語は他所でやれ』とか言われそー。 いや、脳内再生余裕だから言われる。絶対。 俺は、はぁと静かにため息を吐き出し、隣の柳田さんを見上げた。 相変わらず優しげなお顔である。 身長が高い割に、威圧感が全くない。 なんなら、会長の方が威圧的だ。 そんな事を考えていると、柳田さんと目が合った。柳田さんはふわっと優しく笑うと、『……疲れた?』なんて気使いをしてくれる。 ほんとに天使オブ天使。可愛い! 「大丈夫です。ただ、思ったより学園内が広くて……俺、2年生になりましたけど、初めてコッチの棟に来ました」 「そうだね……この棟を使うのは、基本的に経済学部か経営学部だね……」 「はい、俺は社会学部なので真反対側ですし」 西園寺委員長の後ろをついて行きながら、周りを見回す。この学園にはめちゃくちゃ学部があるのだ、正直どれくらいあるか把握してない。 専門学も学べるし、コースによっては普通の高校と変わらない。 大学的だが、あくまで学園らしい。 俺は社会学部の特待生で、大企業や政治家の息子じゃないが、入学にあたって厳しい試験を乗り越えた。だからこうして、この学園でビューティフルライフを送れている。 閑話休題。 ちなみに、見事に変装を諦めた巻君は、翔太と大牙に声を掛けて2人をフリーズさせていた。 まあ、気持ちは分からなくない。 さすがにあのもじゃ男から、急に碧眼銀髪イケメンにジョブチェンしたのだから。 驚かない方が無理だ。 今思い出しても本当に巻くん、めちゃくちゃイケメンだったなぁ……。可愛いって言うか美人? 系統で言ったら、西園寺さんとか副会長とかの美人系。 俺は完全に可愛い系を想像してたから、ギャップっちゃギャップかな? まあそれは置いておいて。 すると突然、西園寺さんが歩みを止めた。 「……? どうしました?」 「声が……」 「声?」 「いや、気のせいだろう」 ??? なんだ、ホラー展開か? 何を考えているか分からない表情で、『声が…』なんて言われたらビビるだろ。 柳田さんも困惑しているのか、さっきまでの優しそうな表情がピリッとしている。 雰囲気的に俺も気を引きしめるが、西園寺さんの言っていた声など聞こえてこない。 「階段の踊り場付近で、生徒達が騒い出るんじゃ?  それで、ここまで声が反響してきてる……とかなんじゃないです?」 「そうかもしれない。……あとは、この教室で最後だ」 「意外と……早く、終わった……ね?」 「そうですね〜、この教室を見てさっさと戻りましょ」 西園寺さんを追い越し、俺が扉を開ける。 教室には誰もおらず、特に荒らされてもいなかった。なんだか気が抜けてくるりと背後を見れば、西園寺さんと柳田さんも、ほっとした顔をしていた。 「……ここも異常ないな。よし、山谷」 「はい」 「コレを九重先生へ届けてくれ、俺たちの見て回った棟は異常無い事が記されている」 西園寺さんはクリップボードに挟まれた紙を、クリップボードごと渡してきた。それを受け取り、中身を大雑把に確認する。 「……っと、はい! 分かりました。他に報告事項とかありますか?」 「いや、特にない。柳田、お前はこのまま俺と神楽坂の所へ合流する 」 「うん……了解」 「山谷。お前はソレを渡したら、そのまま教室へ帰っていい」 「りょーかいです! じゃ、お疲れ様でした!」 委員長に言われるがままに、渡り廊下を渡っていく。誰も居ないし少しだけ走っちゃえ! タカタカと走っていたら、突然目の前から生徒がやってきた。何故が俺の方を見て固まっている……なんだ? よく分からないが、ネクタイが上の学年の色なので適当に挨拶をしておく。 「こんにちは〜」 「……うん」 慌てた様子で相槌を打ったその人は、逃げるように去っていった。 「なんだ……?」 疑問に思いつつも、俺は九重先生の元へ向かった。
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