Bird's Eye

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Bird's Eye

地図とは魚拓である。 この言葉は、世界で最も信用され、最も多く流通した地図を作り上げた地図職人の言葉である。 人や自然の営みによって生き物のように絶えず姿を変化させる大地の一瞬の有り様を紙に留める作業は魚拓を取る様に似ている。そしてその地図を手にした者達は見聞を広め、その土地を訪れ、商売を興し、開拓することでまた世界の有り様を変えていく。 故に、大地の変化に終わりはなく。同じく製図にも終わりなし。我ら製図士の使命は、その土地の栄枯盛衰を可能な限り正確に写し取り、今を生きる人々に授けることであると――。 〜*〜 砂漠の交易都市・スタジアはあらゆる都市の貿易の中継地点であり、それ故に商売のみならず最先端の学問も集中した。中でも経済、測量、詩学は最たるもので、世界一正確な測量と製図の技術が確立するのも頷けるというものだった。 「世界製図協会・スタジア本部」。世界中の冒険者やキャラバン隊からの証言や実地の測量に基づいて、需要に応じた地図を描く団体の本部もまたその街に存在した。砂塵を防ぐ棕櫚(シュロ)の樹に挟まれるように、重厚な左右対称の茶色の建造物が、今日も門扉を開いていた。 陽が強烈に照りつける中、ある一団が敷居を跨いだ。それらは全員ターバンをしていて、褐色の肌の男達。屈曲そうだが気性も荒そうな男達を従えて、錫杖を突きながら先頭を歩くターバンの男は、針金のようなヒゲに豪奢な首飾りをしていた。錫杖を音高く鳴らしながら歩を進めると、受付の前に立ちはだかって嗄れた声を挙げた。 「商会を代表して来た。我々が持つこの地図の責任者を呼んで参れ」 「これはこれは、スタジア商会のシエネメス会長!来訪のご予約などありましたでしょうか?」 「無い。火急の用故な。とにかく責任者を呼ぶがよい。貴様のいい加減な地図のせいで、我が商隊が損害を被っているとな」 シエネメスと呼ばれた男は鷹揚に、しかし冷酷に言い放つ。受付は顔を青ざめさせながら、後ろの階段を駆け上がっていった。
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