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プロローグ
ひとつ、ふたつ、みっつ。
駅の改札口の前に立ち、目の前を通り過ぎる人の数を数えてみる。特に明確な理由がある訳でも無く、待ち合わせをしている訳でも無く、それでも誰かを待っているフリをしている。落ち着かなくて、真っ直ぐに立つことが出来なくて、ずっと軽く足踏みをしている。
ーーーそんな自分が、そこには居た。
君に会える筈はないのにどうしても面影を探していたくて、改札口が見えるカフェに入る。君が好きだった抹茶オレを頼み、それを飲まずにペンを取った。
〝お元気ですか?
君が居たあの街に来て、
ふと思い出して今こうしてペンをとっているよ。
高校時代はどうもありがとう。
その節は大変お世話になりました。
回想に近い小説を書いたから、同封しておくよ。
時間が許す時に気晴らしにでも読んでくれたら嬉しい。
返事はいらない。体に気をつけて。
それでは。〟
君に手紙を書きながら、君との日々が脳裏に浮かぶ。
ずっと、少女漫画のような綺麗な恋がしてみたかった。昔からの、憧れだった。
けれども高校生活を通してわかったのは、漫画のような学校生活など存在せず、漫画のような恋など無かったということと、それでもそれなりに楽しもうと思えば楽しめるということ、そして自分がどんなに生きづらい性なのかということだけだ。
この手紙が本当に君のもとへ届くかどうかもわからないし、重く歪んだ小説も読んでもらえるかわからないけれど、きっと君は優しいから最後まで読んでくれるだろうから。
…これは、君に向けた長い長い○○○○○だ。
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