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動画を見ながら踊り方を教えたんだ。とりあえず炭坑節を。あとは踊ってるおばちゃんたちの後ろについて見て覚えろって言って。
「ああ、もちろんさ! あれから動画を見て練習した、他の曲もな! テンポがゆっくりだから難しかったぜ」
「普通は早いと難しいんじゃねぇのかな」
その手をとって、螺旋階段上の櫓を降りる。盆踊り独特のガサガサな音響。時々吹き抜けるぬるい空気、食べ物の匂い。
気持ちいいと感じてしまうのが、ああ俺日本人なんだなって感じがする。
さりげなく輪の中に混じったつもりが、どうしたって大男の夫が目立つせいで、アイドルか何かみたいに人が寄ってきた。踊りながら。
「お祭りありがとうございます、主催してくださったそうで」
「楽しいよ!」
言葉がわからないなりに、笑顔と共に口々に何か言われるのを、彼は踊りながら笑顔で受け止めていた。
そんな彼が、なんだか誇らしい。
「ハニー、俺はとても高揚している。俺は今まで、自分が施してきた何かを、直接誉められたことはなかった。盆踊りを主催したことで、こんなにたくさんの笑顔が見られるなんて、毎日主催してもいいくらいさ!」
ガサガサの音声を縫って、彼が満面の笑みで言った。毎日主催は無茶だけど、彼の新たな生きがいになりそうなら、来年からは俺も手伝ってやろうかな。
「ま、後片付けも面倒じゃないなら、来年もやってみればいいんじゃね?」
俺は軽く笑って、踊りに興じたのだった。
ー終ー
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