夏祭りの日

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夏祭りの日

神社の境内は にぎわう露店の先にあった。 最近 人通りが少なくなっていた商店街も 祭りの1週間だけは  日中から、ざわめきが途切れることはない。 祭りの最終日に 打ち上げられる花火は 祭りの締めと同時に 海が見える街の夏の終わりを告げる合図にもなる。 ちょっと地元で有名なひとくちカステラの露店を横目に (やしろ)への階段を 参拝者の列の流れに合わせて一歩ずつ上がっていく。 打ち上げ時間に合わせて人込みも増していく時 「ここから花火みえるかなあ」 その声に ゆっくりと 階段下の向こうに見える海を見た。 真っ暗な海の向こうに対岸の街あかりが揺らいでいて あちら側もこちらの花火に合わせて 打ち上げ準備をしているに違いない。 今思えば あの時 カノジョは はきなれない下駄にちょっと苦戦して 兎のようにピョンピョンしたり この階段では ヒヨコのようにヒョコヒョコ歩いていた。 階段を一つ上るたびに 蒸し暑さの漂う空気と  おいしそうなイカ焼きの匂いが広がっていく。 「腹減ったなあ。」 その匂いで自分が空腹なことに気がついた。
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