ホタル

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   速く、速く!  凪は先生を呼びに走った。  キャンプファイアーのところか、宿泊施設のところに先生はいる。  場所から言って、宿泊施設のほうが近かった。  来た道を走っていると、ちょうど前からきていた人と、ぶつかりそうになった。   「ごめんなさい!」    凪は走って通り過ぎようとした。しかし、はたと思いつき、影に向かって話しかけた。   「ねえ、先生中にいた?」 「えっ」 「先生を探してて……怪我している子がいるから、呼びたいの。いた?」    凪はいっせいに話した。相手が黙り込んでいる。そこで、この人にあせっても仕方ないことに気づいた。 「ごめん、自分で見てくる」    また走り出した。  駆けて、駆けて、あの池の近くにまで来る。  けれど、凪は気もつかなかった。  ここを越えたら、施設につく。そのことのほうが嬉しかった。    そこで、いきなり腕をつかまれる。   「ひっ!」  思わず漏れた悲鳴にも、相手の手はゆるまなかった。   「そっちに高田先生いない。キャンプファイアーの方」 「えっ?」 「救急箱持ってる先生」    声の主は、狭山だった。 「さっき声かけてきたじゃん」  凪が呆然としていると、狭山が憮然と言った。   「はやく行こう」  狭山の顔を見た瞬間、凪は無性に泣きたくなった。  けれども、律子の顔を浮かべて耐えた。狭山に返事はせず、うなずいて、もと来た道を歩き出した。  池を通り過ぎたところで、凪は少し冷静になった。     「ありがとう」    狭山に礼を言った。  狭山が知らせてくれたおかげで、時間を取られなくてすんだ。  狭山は、黙っていた。凪も何も言わなかった。   「急ごう」    と言って、駆け出した。
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