しましま

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「正直幼稚園の時の記憶だ。顔だって朧気で、しかも変わっているだろう。だけどなんでか、その子だって思ったんだ」 でもオレがいたのはオメガクラス。アルファの天は近づく事ができない。 「どうにかして確かめたかった。都合のいい偶然はないか。いっそ向こうからきてくれないだろうか。そう思ったけどそんなこと全くなくて、そうしたらみつがののの話をしたんだ」 アルファは性格が悪いから嫌い。 嶋は名前がNG。 「ああ、だからかって思ったよ。気になっていつも俺はののを探して見てるけど、一度も目が合ったことは無かった。つまりそれは、ののは俺・・・というかアルファには興味がなく、しかも俺は『嶋』だからさらに問題外なんだと」 高校の時、確かにオレはアルファに興味がなくてみんなが騒いでいても全くそこには加わらなかったけど、天がオレを見ていたなんて知らなかった。 「それでも気になって、俺を見て欲しいと思った。だけど一度も目が合うどころか、俺はののに避けられてるって分かったんだ。一度、下校が重なったことがあったろ?俺の後ろにののがいた。ののは俺のことが分かってるはずなのにどんどん歩くのを遅くして、俺が信号で止まると、ののの足はもっと遅くなった。その時分かったよ。俺に近づかないようにしてるんだって」 あの時、天もオレに気づいていた。 「だから諦めようと思ったんだ。ののはオレが嫌いだから、俺から近づいてもっと嫌われないようにしよう。だけどどうしても近くにいるとののを探してしまう。のののことを考えてしまう。だから、全くののとは関係ないところに行こうと思ったんだ」 それがアメリカ・・・。 「あの時貸してもらった傘も処分して行ったアメリカで、オレは全く違う環境と毎日の大変さにようやくのののことを忘れられそうだった。そんな時に親父から気になる子ができたって連絡が来て。誰かは知らなかったけど、ずっと亡くなった母一筋で、俺の事ばかりだった親父が、やっと自分の幸せを考えるようになったって、嬉しくて。まだ躊躇してた親父にはっぱをかけてたんだ。その親父がやっと結婚するって聞いて、喜んで帰国したら・・・」 先生の訃報が飛び込んできた。 「嘘だろ?まさかって。結婚して、いま一番幸せな時じゃないのか。そう思って急いで帰った家には、呆然としたののがいた。正直何が何だか分からなかった。親父が死んだことも信じられないし、家に居たのがののだってことも、幻覚かと思った」 父親の相手が自分の同じ歳の子だということは知っていたけど、それがまさかオレだとは知らなかったのだという。 「だけどその時のののはどこかぼうっとして、何も聞こえてないし見えてなくて、表情も無くて・・・。あの時の俺だと思った。あの時の俺のように、状況がよく飲み込めてなくて、親父の死を認識できてないんだって」 あの時の・・・天? 「公園で会った時、あの時母親が死んだんだ。あの市大病院で。幼かった俺はそれがよく分かってなくて、だけど動かなくなった母親の横で泣きじゃくる父親を見て、それがただことではないことは分かっていて、その場にいたくなくて逃げたんだ。逃げてあのベンチに座って、だけど心がなんにも感じなくて。そしたらののが来て、泣いていいよって・・・」 あの時、天のお母さんが・・・。 「俺は訳も分からず泣いて、いっぱい泣いて、そして分かったんだ。母さんにはもう会えないって。それが明確に死と認識出来てたかどうかは分からないけど、はっきりともう会えないって分かった。あの時泣いたから、泣くことが出来たから俺はその後、母親の死を乗り越えることが出来たんだ。だからののも、そうなって欲しい。そしてその時、俺の傍に親父がいてくれたように、ののの傍に俺がいてやりたいと思ったんだ」
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