ありきたりの物語

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ありきたりの物語

 よくある話だ。  それは本当に、よくある話。  女手一つで私を育ていた母親が再婚して、義弟(おとうと)が出来た。  小学校ニ年生の時のことだ。    ふたつ歳下の義弟は、男の子の割にはおっとりしていて、いつも言葉少なにニコニコと笑っていて、その歳の子供達の中でも取り分け幼いところがあった。  まだ七歳の私だって充分に幼い子供だったのだけれど、小学生の女子なんて、必要以上にお姉さんぶりたい年頃だ。  私はその、(やわ)くて丸いかわいらしい生き物を、一目で気に入った。  「今日から凛のお姉ちゃんになる、莉子ちゃんだよ」  背中を押された凛は、戸惑ったような怯えたような顔をして、父親の脚にしがみついた。  「凛くん?凛ちゃん?なんて呼ばれたい?」  しゃがみ込んで視線を合わせた私を、凛はその大きな目をまんまるに見開いて、息を詰めてじっと見つめた。  目の前にいる存在を、安全なものかどうか確かめるように。  「……りんだよ」  小さな声で答えて、凛はにっこりと笑う。  凛はそれきり、四六時中、おねえちゃんおねえちゃんと言いながら、私の後を着いて歩いた。  
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