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進級
それから俺等、在校生も春休みに入った。
俺は明日から3年生の始業式を迎える。
俺は日中、コンビニの前の自販機に寄り掛かるようにして、タバコを吸っていた。
その時、1人の女が重そうな荷物を持って歩いて行くのが見えた。
と、荷物をコンビニの前で地面に置き、俺にも気付かずに、息を整えている。
見ると、なかなかの美人だ。
歳は俺と同じくらいに見える。
何故、女には重そうな荷物を1人で運んでいるのか?
引っ越し…なら、普通、業者を手配するよな。
それか、実家の近くに越してきたか。
家具家電付きの物件なら、荷物も少なくて済むだろうしよ。
俺には今、杏奈がいるが、杏奈とは又違うタイプの女に興味をそそられた。
「おい」
声を掛けると、一瞬驚いたように俺を見る。
そして、言った。
「貴方、ダメじゃない。未成年はタバコを吸ってはいけないのよ」
こんな状況で言われても説得力がまるでない。
俺は軽く聞き流す。
「あんた、俺のこと注意してる場合じゃないんじゃないのか?荷物、重そうだから持ってやるよ。家、何処だ?」
言った後、初対面の女に警戒されるかとも思ったが、女は右腕を伸ばして、指を指して言った。
「…あっちよ」
言われて、タバコを吸ったまま、女が持ってた荷物を持つ。
確かに重いが、片手で持てない事はない。
俺は女と並んで歩き出した。
「ありがとう」
「別に構わねーよ。暇だったしな。それより、あんた、警戒心ってものを持った方がいいぜ」
「あ…そうよね。どうしよう…」
おいおい。
この女、大丈夫か?
てっきり警戒した上で案内してるのかと思いきや、どうやら、俺に言われるまで自覚してなかったらしい。
何か…抜けてるというか、危なっかしい女だな。
今まで出会ったことの無いタイプの女に、俺の調子が狂う。
「てえか、あんた。この辺じゃ見ない顔だな」
「うん、今日、引っ越してきたんだけど、業者の手配を忘れちゃって…」
やれやれ。
だったら、手配してから引っ越せよ。
俺は内心、毒付いたが、もしかしたら何か事情があるのかもしれねーと思って黙る。
案内された先は、古びた屋敷だった。
こんな所に住むのか。
「あんた、1人暮らしか?」
「そうよ?」
「そう、か…」
その時、何故か胸が疼いた。
「…俺は帰る。荷物は中まで運ばなくても良いよな?」
「それは構わないけど」
「じゃあな」
女の返事に俺は荷物を置くと、その場を後にした。
もう会う事もないだろう。
この時点では、俺はまだそう思っていた。
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