1.たまご(0)

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1.たまご(0)

「——あんたぁ、こっちこっち」 「——ああ、おまえ、待っておくれよ」  街角に、パタパタ羽根を落としながら下りるふたつの黒い影。 「危なかったなぁ。もう少しで捕まるとこだった」 「あんた、怪我をおしでないかい?」 「ああ、ちょいとした擦り傷だ。それより、うまくいったなあ」 「うふっ。あんたがうまいこと牽制してくれたから、気づかれることなく逃げることができたよん」 「……ちゃんと置いてきたんだろうね?」 「ああ、もちろんあんた。あたしゃ、そこらへんはぬかりがないよ。ちゃんとあたしたちのかわいい卵を、女王の寝床に置いてきたよ」 「よし。これでおれたちのこどもも、王族としての教育が受けられるなぁ」 「そうよ。もしかしたら、王様にまでなれるかもしれないよ」 「よくやった。——ちゅっちゅ」 「ああ、あんた。あんたのおかげだよん。——ちゅっちゅ」  ついばみあう。 「あんた。それでこの、代わりに持ってきた卵たちはどうするね?」 「そりゃ、おまえ。そこいらに捨てときゃいいだろう」 「はいよ」 db5010e5-524b-4ac2-95b2-289c6696b36a 四つの卵が、道端に捨てられた。  折から強い風が吹き、それらはころころと転がっていくが、もはや二羽の関心は我が身に移っている。 「あんた。傷口からバイキン入るといけないから、先生の診療所によっていこうよ」 「そうかい。おまえはやさしいねぇ。最高の女房だ。よし、行こう」 「行こう行こう」  これが、はじまりだった。
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