5:卑劣な悪意を払って

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 が、乱暴な力が再び俺を襲うことはなかった。むしろその腕は本人の背中に回されて、品のない顔に苦痛を作らせる。 「いっ、いてぇっ、いてぇよっ……離せっ……!」 「殺人未遂の次は誘拐と暴行か……つくづく気に障る奴め」  生々しい罪状を連ねてダメージを与える低い声。上から光を注いでくる、カバーもバンカーリングもないブラックの長方形。  その容赦のなさが俺を安心させて、みるみる内に体から力を奪っていく。 「里中(さとなか)祐平(ゆうへい)。今度ばかりは警察に突き出してやる」  男の後ろ。冷たく光る朋紀さんの()が、品のない(やから)を静かに見下ろしていた。 「ま、待ってくれっ‼」  警察。自分の経歴にメスを入れられるのはさすがに堪えるのか、男は怯えた顔で朋紀さんに(すが)った。 「ちょ、ちょっと、魔が差しただけだってっ……な? 長谷川のことは未遂だし、ゆ、許してくれよ……」 「魔が差した? そんなことで人の妹を誘拐して、ましてや義弟(おとうと)まで殴っておいて、何の詫びもなしに許されるとでも思っているのか? 未遂ならどんな悪意も償わなくて構わないと? お前の頭はとんだ花畑だな」  聞く耳を持たず、容赦なくスマホを操作し耳にあてる朋紀さん。  腕を拘束されて身動きが取れない男の前に、朋紀さんと同じ氷を潜ませた萌香が立つ。 「春樹をこんなに傷付けたこと、許さないから。ちゃんと反省してきて」  抑揚のない声は、絶対零度の視線より何倍も堪えただろう。男はがっくりと肩を落とした。  俺も擁護する気はなかった。萌香に怖い想いをさせたこと、きっちり頭を冷やして反省してもらわないと気が済まない。
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