ベストの相手として選ばれたのが腐れ縁幼なじみだとは

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ベストの相手として選ばれたのが腐れ縁幼なじみだとは

「なんで、お前やねんよ」  飲み会のノリで、同僚とマッチングアプリを利用した。  そしたら、ベストの相手として選ばれたのが腐れ縁幼なじみだとは……。 「なんよ、(シュン)。不思議なのは、ウチの方なんやけどぉ?」  莉央(リオ)にとっても、寝耳に水の出来事だったみたいで。 「よりによって、ウチがネタで登録したときに来んとってくれる?」 「それはこっちのセリフやで、莉央」  気まずい。    本来なら見知らぬ女性を誘って、ホームグラウンドの調子で口説くはずだったのに。  待ち合わせの場所も、いつも二人でデザートを食べに来る純喫茶だし。  食べているメニューも同じだ。  冷コー(アイスコーヒー)とカツサンド。シメはマスターお手製のホットケーキである。  顔見知りのマスターも、ニヤついてる。  なに見とんのじゃ期待すなっちゅうねん。「おっ、いよいよ結婚か?」みたいな顔で身を乗り出すな。  いたたまれなくなった俺は、スマホに目を向けた。   「会話中にケータイを見るんは、『ファビング』いうんやで? 人に一番(いっちゃん)嫌われるで?」 「わかっとんねん。メンタリズムDaisukeの受け売りやろ?」  俺も動画サイトから、その配信者を知った口である。 「二番目の彼女も、それで別れたやん」 「はいはい。相手がやってたからな。別れたんやったな」 「せやったら、ウチ相手にファビングすんのやめて。自分がされて嫌なことを相手にもやったらアカンって、教わったやろ?」 「わざとやないねんてっ」  俺が気になったのは、二人を結びつけたアプリだ。  メンタリズムDaisukeが開発した婚活アプリ『Will』は、心理テストなどでベストマッチの相手を選ぶ。その内容も、信頼できる質問ばかり集めている、正確性の高いモノばかりだ。  そこから相手を選びデートを重ね、結婚するかどうか『決断(Will)』するのである。    「もうやあ、何から何までマッチしてるやなんて思わんかったわー」 「ホンマな。ここまできたら運命共同体やわ俺ら」    共に朝型で夜更かしの方ができないタイプだ。  どちらもコーヒー党、目玉焼きよりオムレツやスクランブル派である。  収入にはこだわらない。どちらかというと休みが欲しい質だ。  ラーメンとギョーザなら、毎日食べられる。から揚げにレモンは別皿にしてほしい。酢豚にパイナップルは不要だ。  ゴキブリや幽霊は平気。近づかなければいいし、対処もできるから。  チンピラとかクレーマー、カルト教団とか、「話が通じないタイプの人間」が一番苦手。  映画が好きで、ゲームはプレイ動画を鑑賞するタイプだ。物語がわかれば別媒体でもいい。  好奇心はあるが、人付き合いは悪い方でめんどくさがり。 「あるなぁ」 「あんた、前の彼女もズボラすぎてほったらかしてたもんな」 「せやねん」  ケンカをしたくないから、相手を遠ざけてしまう。もしくは自分から離れる。 「これは、お前見てたらわかるわ」  莉央の元カレは明るかったが、細かくて神経質な男だった。  俺も話したくないレベルの男で、「さっさと別れたら?」とアドバイスしたこともある。    「自覚はあるんよ。めんどくさくなるねん」 「わかる。俺も一緒やし」  マッチングアプリで出た質問に答えまくった結果、お互いに辿り着いた。    「案外、俺も知らんことばっかりやったな」 「せやねん。マッチングアプリって怖いわ、ホンマ」  冷コーの氷も、暖房ですっかり溶けてしまっている。  最初の淀んだ空気を払うため、割と話し込んだのがよかった。   「でもさ、スマホじゃないとわからなかった。あんたが、あたしを好きかもしれないってこと」 「ああ、うん」 「お互い、恋愛相談し合ったことはあっても、付き合ったことはなかったやん?」 「せやな」 「どうする?」  莉央と視線が合う。   「まあ、せやな」 「せやなやなくて、イヤなん?」 「イヤやないけど……」  だからマスター、期待すなっちゅうねん。 「こう、めんどくさがるところがアカンねんやろうな」 「自覚あるやん」  観念した俺は、決断(Will)する 「俺でええんやったら、付き合うか?」 「うん。ほな頼むわ」    なんでマスターがガッツポーズ決めてんねん? 「って、お前なんで泣いてんねん!」  気がつくと、莉央がハンカチで目頭を押さえているではないか。    「ちゃうねんって! 告った瞬間顔めっちゃ真っ赤になったアンタがおかしかってんて!」 「赤くなんかなってへんし!」 「なにそれ必死! ウケる!」 「なんやねんお前ホンマ! 出るぞ!」  純喫茶を出て、予定を組む。  とりあえず、映画を見に行き、おいしい夕飯を食べた。  ここまでは順調だったが、酒を飲めない同士の二人はとうとうネタ切れに。   ムラムラを紛らわすために、バッティングセンターにまで行った。  だが、「まだ帰りたくない」と言われると、こちらも期待してしまうわけで……。 「次、どないすんねん。カラオケか? それかいきなりラブホ?」 「イヤや、人が使った部屋なんか。ウチのアパートおいでや。近いで」 「それこそ、前のオトコが利用してたんとちゃうんけ?」 「最近、別の部屋に越したんよ。せやから、元カレの面影なんかないよ。安心して」 「ほな、お邪魔します……」  一ヶ月後、俺たちはデキ婚した。
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