8「戦いにすらならない」

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深酒をした次の日というものは、眠りが浅いのか知らないが夢を見ることが多い。 二回目の誕生日プレゼントを贈った日の夢が大音量のアラームとともに終わり、起き上がった途端に途方もないほどの頭痛に襲われた。 見事に二日酔いをしたらしい。確かに昨日、帰宅してすぐ横になった記憶がある。そんなわけで体内のアルコールを適切に処理出来なかったわけで、次の日まで残った形だ。 昨日の自分を恨みながらも起き上がり、とにかく水を飲んだ。吐きそうだったが堪え、それからカップスープも作り塩分を取る。飲酒するようになって早三年、二日酔いへの処置は慣れてきた。二日酔い自体には慣れることは一生なさそうだが。 「なんで今日仕事なのにこんな飲んだかなぁ……」 また昨日の自分を恨みながら、吐き気と頭痛を堪えて準備をする。 それにしても、今日の夢。昨日の香水の一件があってのことなのだろうけれど、自分の未練がましさみたいなものに嫌気が差してきた。 「宮瀬くんとは友達、友達」 敢えて言い聞かせる必要もないことを再度二日酔いで痛む頭に言い聞かせ、波のように襲ってくる吐き気を堪えながら現場へ急いだ。 「あっ、どうも! 早いですね」 現場についてすぐ、楽屋へ行こうかと思っていた私に声を掛けてきた女性がいた。 「えっ、あれっ、私遅れましたか」 その女性こと剣継さんが目に入った途端、心臓が大騒ぎしだす。演者の方より遅れたともなれば、切腹ものだ。 血の気が引いていくような気持ちになりながら、思わず服の裾を掴んでいじってしまう。 「ああいや、私今日スケジュールの関係で入り時間が早くて。むしろ扇谷さんすごく早いですよね、玲央の入り時間もう少し後なのに」 チクリと胸が痛んだ。なぜなのかなんて、とぼけたくなるくらい理由はわかっている。本当に、何をしているのだろうか。 「まだ慣れていないので、色々準備をしようかと」 「そうなんですか、お仕事熱心ですね! かっこいいです」 にっこりと屈託もなく、嫌味もなく、ストレートに浴びせられる太陽のような笑顔。 焼かれそうだった。お天道様は見ているなんていうけれど、そんな太陽に顔向けできない犯罪でも犯した気分になる。 ありがとうございますか、そんなことないですよか、何を言ったか覚えていないが私は笑えていたのだろうか。
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