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「お天気が良くて何よりでしたな」
見合相手の父は、にこにこと愛想が良く、いかにも商売人といった感じだったが、結婚式でもないのに紋付き羽織袴の第一礼装で来るあたり、この縁談への熱意を感じさせた。
母は早くに他界しているらしく、代わりに親戚のおばさんが来ていた。
その二人の後ろに隠れるようにして、こちらを見ているのが、見合相手の中野一郎だ。
仕立てのいい背広に白金の鎖を胸にさげ、あか抜けた印象だった。
「一郎、琴子さんにご挨拶なさい」
父親に言われ、ゆっくりとした動作で私の前に現れた彼は、近くで見ると息を飲むほど美しい顔をしていた。
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