絶対言わないで

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 社会人になってからもあった。会社で僕の面倒をよく見てくれたお姉さん。  その方がある日突然に会社に来なくなった。  上司に聞いたら体調の関係だと言われた。  風邪か何かか? と思っていたが、一週間経ってもニ週間経ってもお姉さんは復帰しなかった。  ある日、僕のスマホにお姉さんからメッセージが届いた。 『心配かけたみたいだね。私、会社辞めるから』  僕はすぐ様に返事をする。 『そんなに悪いのですか? 辞めなくても休むだけでいいんじゃないですか?』 『ありがとう。でもね、私、今 、入院してるの。余命宣告もされて、もう長く生きられないの。絶対に誰にも言わないで』  じんわりと涙が滲むのか分かった。僕の返答は決まっている。 『分かりました』  そのやり取りはそれっきり。春が来たとき、桜が咲いてますよと画像付のメッセージを送ったが、それがお姉さんに届くことはなかった。    それからも沢山の絶対言わないでを僕は聞いた。  人生も残り僅かな年齢となった。今までの絶対言わないでは全て守っている。  愛らしい孫がある日、私に尋ねてきた。 「おじいちゃんって優しいよね? 嘘とかつくことあるの?」  私は、にこりと笑いあるよと答えた。 「実はおじいちゃんは嘘つきだからね」 「嘘だぁ」  嘘つきでもいい。僕はずっと約束を守る。全ての絶対言わないでを守る。  あなたたちとの約束。それが僕という人を作り上げた。  今だから言わせてもらう。  ありがとう。
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