ゆるすまじやで

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 大学に向かう道すがらの事件だった。 「ゆるすまじやで」  朝の大阪で、こんな言葉を投げ飛ばされた。風で煽られたスカートから覗いたパンツを、うっかり目撃してしまったせいで。  相手は十代の少女であった。ミニスカートを穿いた、少し気の強そうな女の子。  僕は、自然的不可抗力と理不尽さの説明を試みようと思ったが、少女はとっくに去ったあとだった。  道の真ん中で立ち尽くし、僕はふと閃く。  ゆるす/まじやで  ゆるすまじ/やで  これ、文節の区切る箇所を変えたら逆の意味になるんちゃうやろか、なんて考えた。  はてさて僕は許されたのか、それとも許されなかったのか。どちらだろうか。  このできごとを大学の友人に得意げに話すと、 「後者やろ。アホでもわかるで」  即答された。直後、スマホで僕の顔を撮る。 「ほら、見てみい」  そのスマホに映された僕の顔には、くっきりと朱色の手形が残っていた。
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