ディベートショー

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ディベートショー

「それでは今回も海外からリモートで参加して頂いてるユキヒロさんです拍手」 ぱちぱちぱちぱち ネットのなんちゃってテレビの司会者が仰々しくも迎えたのはこれまたネットの中のカリスマとも言えるディベートの達人のユキヒロであった。 「では今回も視聴者から様々な質問をぶつけて貰いましょう」 するとリモートで参加している中の一人が手を挙げた。 「あ、じゃあそこのあなた!」 司会者はいかにも論戦に向いてなさそうなボサボサの髪でヨレヨレの犬のプリントが貼ってあるトレーナーを着た見た目が負け犬の様な青年を指名した。 こういうショーはやはり強者を引き立たせてナンボなのだ。 「あ、は、はい」 少し緊張気味に青年は答えた。 「えーと、一応お名前は?無ければナナシになりますけど」 観衆から少し笑いが起きた。 「あ、じゃあ、それで」 また少し笑いが起きたが直ぐに止んだ。 「では質問をどうぞ」 「あ、あのーユキヒロさんの書物は結構読ませて貰ってるんですけどわからないところがあって」 「はいはい、どこでしょう?」 ユキヒロはいつものポーカーフェイスの様な余裕の笑顔を顔に張り付けて答えた。 「あの、貧乏人がなぜ頭が悪くなるかっていう、、、ところでして」 「ほう」 「とある実験でお金持ちグループとそうでないグループに分けてテストを受けさせ、その時会場にに乗ってきた其々の車に莫大な損害が被るというドッキリを仕掛けてテストの結果がどうなるか検証した結果、お金持ちグループよりそうでないグループの方が試験の成績が悪かったというのを例として挙げてました」 「うん、まぁ、確かに一つのエビデンスとしてあげたね」 「コレってつまり、お金持ちは莫大な損害を被ってもそれほど精神的なプレッシャーは受けないがそうでなければ大変なプレッシャーの中で試験を受けなければならないので試験の結果が悪いって事ですよね?」 「まぁそうなるよね?金持ちは常に冷静に行動できるが貧乏だとちょっとした事で精神的にプレッシャーのかかる事が多いだろうね」 「あの、コレって要は誰でもプレッシャーが掛かる状況では十分な実力が発揮出来ないという実験なのでは?」 「、、、確かに一面そういう見方にもなるかな」 「だとですね、ちょっと腑に落ちないんです」 「ん?どういう事?」 「つまりお金持ちは常にプレッシャーから解放されていて、そうでない人間は常にプレッシャーに押しつぶされそうになってるって前提がないと成り立たないんですよ」 「まぁ一般的にそうでしょうね。基本的にお金で解決できないことの方が少ない訳だからお金持ちの方がプレッシャーから解放されてると考えても良くないかな?」 「本当に貧乏な人は車持ってませんよ」 「は?」 「つまり本当に貧乏な人はプレッシャーなんてかからないんじゃないかなぁと」 これには観衆から乾いた笑い声が起こった。 「貧乏人より(むし)ろ財産なり地位なり名声なりをお持ちのお金持ちの方の方が今の現状を維持する為にあれこれ思い悩んでプレッシャーは相当なものなんじゃないですか?」 「まぁ、そのレベルの人もいるかも知れないけど、ある程度突き抜けた人達は悩んだりしないんだよ、お金がお金を引き寄せてくれるからね」 「言いましたね?」 「はい?」 なんとなくナナシの雰囲気が変わった気がした。 「お金持ちにもそのレベルの人が居ると言う事はお金持ちでも悩む人がいると認めましたよね?」 「まぁね、でもそれはかなり少ないと思うよ」 「少ないって言うのはあなたの想像ですよね?」 観衆からザワザワと騒めきが起こった。 ナナシの台詞がユキヒロのいつもの決め台詞に似ていたからだ。
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