3. ウィーンブロック カフェ・モーツァルト

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 零が慌ててカメラを顔に向けると、彼女は笑っていた。 「ありがとう。結構気味悪がる人も多いんだけど、そう言ってくれて嬉しいな。握力が強いからこの手は軍人として最高の武器。気に入ってる」 「ドラゴンみたいで最高にクールじゃないか! 君の手を気味悪がった奴と俺は感性が合わないし気にすることはない。君は最高のパイロットだ。一緒に飛んでみたい」 「ぜひ。実践訓練をお願いしたい。あなたの方がOKなら、私の方は上官の許可をもらっているからいつでも大丈夫だ」  その瞬間のことであった。きゅるる、と何かが鳴った。あ、腹の音か、と零は一瞬で気がついた。 「すみません……昼も食べたんですがお腹が空いてしまって……」 「気にしなくていい! 生理現象だし腹って唐突に鳴るし止めようもないし!」  真っ赤になって申し訳なさそうに言ったラプターが可愛くて零は狼狽えて早口で言った。そうこうしているうちに、注文していたケーキとドリンクがサーブされた。 「こういう時に俺たちは腹が減ったりしないから便利なんだよなぁ……どうぞ、気にせず召し上がれ」 「はい。それにしても、恥ずかしいな……空腹なのがバレてるってのは。人よりも体温が高いから燃費が悪いんだ」  サーモグラフィーカメラに切り替えれば、高いところで39℃近くはある。深部体温を測ったら40℃近いのではないか。え、と戸惑ったが、そういえば鳥類は平熱が42℃くらいある種類もいることを思い出した。空を飛ぶには莫大なエネルギーがいるからである。確かにこれはこまめに食べないとエネルギーが欠乏する。もしかして、彼女は鳥か?  彼女は左手のグローブも外してフォークを手に取る。ケーキを優雅にカットしてフォークに刺して、口に運ぶ。うん、動作も綺麗だ。 「どう?」 「うん、ジャムの酸味も効いていてなかなか美味しい」 「それはよかった」  女の子が美味しそうに食事をしているのを見るのは好きだ。ミラはカップにも手を伸ばして一口含んで口の端に笑みを刻む。スチームド・ミルクの泡が口の端について、それをぺろりと舐めとる。零はその仕草にどきりとして、慌てて声を出した。 「砂糖は入れない派?」 「今日はケーキが甘そうだから砂糖なしにした。普段は気分によるかな?」  ウイスキー色の双眸がこちらのカメラを見た。普段から自分たちのようなフル・サイボーグに慣れている視線の使い方だ。蛇の縦に細長い瞳孔とは違う。人間のようにまん丸な瞳孔。猛禽のような目だ。手を見る。鱗に爪。ああ、繋がった。 「君にはワシの遺伝子が組み込まれているのか!」 「そう、ハーピーイーグルっていうワシ。あと他にも色々猛禽類と鳥類が混ざってるみたい」
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