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1.
「ね、ねえ。本当にやるの?」
「当然。まさか、ここまできて怖くなったの?」
あたしとナギは物陰に隠れて、ヒソヒソと話し合う。これはターゲットに決して見つかってはいけない、極秘任務だからだ。
「ううん。そうじゃないけど、でも、ミズキさん……」
「ターゲット」
迂闊にターゲットの名前を明かすナギを諫める。もう、これは極秘任務なんだから、ナギにはその自覚を持ってほしい。
「その、ターゲットの人、驚くんじゃない? 怖がるかもしれないよ?」
今更、甘ったれた発言をするナギに心の底から呆れて、あたしは大きなため息を吐く。
「驚くかもじゃないの。驚かせるためにやるんだよ。ううん、怖がらせるためにやるの」
そう。これは相手に慈悲をかけちゃいけない。復讐だ。それに、相手の方が一枚も二枚も上手。少しでも戸惑ったら気取られてしまうかもしれない。
「でも、もしかしたら、怒られるんじゃない?」
「うっ……」
ナギの言葉に、わたしは一瞬怯みそうになる。しかし、ターゲットにされたことを思い出し、なんとか自分を奮い立たせる。
「こ、ここまできたらやるしか無いんだよ。もう決めたんだから。先に手を出してきたのはおね……ターゲットなの。これは復讐。絶対に許さないんだから」
「……分かった。わたしはもう何も言わないよ」
それまで怯えの滲んでいたナギの目が真剣なものに変わった。どうやら、覚悟を決めてくれたらしい。
物陰から少しだけ体を出して、ターゲットの様子を窺う。緊張からか、汗がにじみ出てくる。どうやら、まだこちらには気づいていないらしい。
「……あっ」
ターゲットがこちらに背を向けて歩き出した。
「ほら、行くよ」
「う、うん」
こちらも行動開始だ。緊張と興奮でドキドキする。
ミッションスタート。
あたしたちは身を隠していた物陰――電柱から出て歩き出す。
スーパーの袋を持った人や、犬の散歩をしている人がジロジロと、たまにクスクスと笑いながら微笑ましそうにこちらを見ていた。
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