失せろ……いや待て待て待て?!

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失せろ……いや待て待て待て?!

長らく温めていた恋が実った数日後、思いもよらぬクズ発言で木っ端微塵に散り消えた想い。 完璧に消滅したと思っていた。 友達に戻れないとも思っていた。 なのに、別れた後も同じ大学で顔を突き合わせる彼が、以前と変わらず何かと私に絡んでくる。 やれ、ランチに行こう。 やれ、次の講義まで一緒にいよう。 べたべたと纏わりつかれて大変ウザいが、無くしたはずの恋心を疼かせる純粋な彼の目が懐かしい。 元々タイプな顔だ。 人懐っこい態度も好感が持てる。  悩みなどないような明るくあっけらかんとした性格も、元気を貰える気がして居心地が良かっ……いやいや、いやいや、騙されたら駄目だろう。 これは見せかけ。 本性は浮気する気満々のクズ野郎。 ぐらつきかけた心を叱咤して無視を決め込むも、次の言葉には反応してしまった。 「なぁ、キスしていいか」 「いいわけないでしょ!」 「じゃあセックスしよう」 「もっと悪いわ!!」 私はあんたのセフレじゃない。なる気もない。盛るなら例の後輩に盛ればいいでしょう?! 「そんなの無理だよ。付き合ってないもん」 「私とも付き合ってないからね」 「俺は別れを認めてない」 「認めてなくても関係ないから。あんたが二心を持った段階で私とは終わったのよ」 後輩が好きと言いながら私も好きだなんて、あれも欲しいこれも欲しいと我が儘ばかりの子供と変わらない。 私はそんな愛など必要ない。 欲しくない。 「頭硬いなぁ……同時に好意を持つことの何が悪いんだよ。ミカンも好きだけどリンゴも好きなら駄目ってこと?」 「味覚と感情を一緒にしないで」 「同じ二心じゃないか」 「屁理屈言うな」 こじつけも甚だしい。 不思議そうに首を捻るクズに怒りが込み上げる。こいつ、本気で言ってんの?! 「やっぱりこういう関係は楽しいね」 「なに笑ってんの。ちっとも楽しくないから」 「ほら、俺が言ったことに即座に反応してくれるところ。なんて言うんだっけ? ああそうだ、言葉のキャッチボールだ」 「全然してないし! あんたのはへっぽこボールで私のはデッドボールよ!」 豪速球で投げつけているのに堪えてないところがムカつくけれど。 イライラする私と対照的にクズは上機嫌で笑っている。アホなのか。いやクズだった。 「あのさ、さっき二心について話していたけどさ、三心だったらどうなるの」 三心……だと? 何を言ってるんだこのクズは。 二股願望でもクズ認定なのにまさかの三股願望とは……ドクズ確定に言葉が出ない。 愕然となる私など気にもせず、クズは少し照れながらドクズ発言をぶちかました。 「後輩って歳下じゃん。歳下には頼られたいものでしょ? でもお前みたいに同い年とは垣根なく話せるし、フランクな関係は精神衛生上必要だと思っているんだ。たださ、歳下や同い年にはない大人の魅力ってのも大事だよね」 「なるほど……その心は? 簡潔に言ってみてよ」 「後輩、お前、それとこの間は言ってなかったけど講義の先生にも惹かれている」 「今すぐ失せろっ!」 塩はどこだ?! 目一杯このクズに投げつけたい!! 「はは、怒ったお前も可愛いな。これで俺に隠し事は何もないよ。何でも言えるお前には誠実でいたかったんだ」 しおらしく語っているけれど。 誠実という意味を辞書で調べてからにして欲しい。 「また出直すよ。じゃあな。俺の愛しい彼女さん」 グイッと腰を引かれて唇に唇が触れた。 あっという間の早技だった。 何の余韻も雰囲気もないファーストキス。 断ったはずの、キス。 どさくさに紛れて何をするんだっ?! と叫ぶも、クズの逃げ足は速くて影も形も全く見えなかった。
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