73人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
失せろ……いや待て待て待て?!
長らく温めていた恋が実った数日後、思いもよらぬクズ発言で木っ端微塵に散り消えた想い。
完璧に消滅したと思っていた。
友達に戻れないとも思っていた。
なのに、別れた後も同じ大学で顔を突き合わせる彼が、以前と変わらず何かと私に絡んでくる。
やれ、ランチに行こう。
やれ、次の講義まで一緒にいよう。
べたべたと纏わりつかれて大変ウザいが、無くしたはずの恋心を疼かせる純粋な彼の目が懐かしい。
元々タイプな顔だ。
人懐っこい態度も好感が持てる。
悩みなどないような明るくあっけらかんとした性格も、元気を貰える気がして居心地が良かっ……いやいや、いやいや、騙されたら駄目だろう。
これは見せかけ。
本性は浮気する気満々のクズ野郎。
ぐらつきかけた心を叱咤して無視を決め込むも、次の言葉には反応してしまった。
「なぁ、キスしていいか」
「いいわけないでしょ!」
「じゃあセックスしよう」
「もっと悪いわ!!」
私はあんたのセフレじゃない。なる気もない。盛るなら例の後輩に盛ればいいでしょう?!
「そんなの無理だよ。付き合ってないもん」
「私とも付き合ってないからね」
「俺は別れを認めてない」
「認めてなくても関係ないから。あんたが二心を持った段階で私とは終わったのよ」
後輩が好きと言いながら私も好きだなんて、あれも欲しいこれも欲しいと我が儘ばかりの子供と変わらない。
私はそんな愛など必要ない。
欲しくない。
「頭硬いなぁ……同時に好意を持つことの何が悪いんだよ。ミカンも好きだけどリンゴも好きなら駄目ってこと?」
「味覚と感情を一緒にしないで」
「同じ二心じゃないか」
「屁理屈言うな」
こじつけも甚だしい。
不思議そうに首を捻るクズに怒りが込み上げる。こいつ、本気で言ってんの?!
「やっぱりこういう関係は楽しいね」
「なに笑ってんの。ちっとも楽しくないから」
「ほら、俺が言ったことに即座に反応してくれるところ。なんて言うんだっけ? ああそうだ、言葉のキャッチボールだ」
「全然してないし! あんたのはへっぽこボールで私のはデッドボールよ!」
豪速球で投げつけているのに堪えてないところがムカつくけれど。
イライラする私と対照的にクズは上機嫌で笑っている。アホなのか。いやクズだった。
「あのさ、さっき二心について話していたけどさ、三心だったらどうなるの」
三心……だと?
何を言ってるんだこのクズは。
二股願望でもクズ認定なのにまさかの三股願望とは……ドクズ確定に言葉が出ない。
愕然となる私など気にもせず、クズは少し照れながらドクズ発言をぶちかました。
「後輩って歳下じゃん。歳下には頼られたいものでしょ? でもお前みたいに同い年とは垣根なく話せるし、フランクな関係は精神衛生上必要だと思っているんだ。たださ、歳下や同い年にはない大人の魅力ってのも大事だよね」
「なるほど……その心は? 簡潔に言ってみてよ」
「後輩、お前、それとこの間は言ってなかったけど講義の先生にも惹かれている」
「今すぐ失せろっ!」
塩はどこだ?!
目一杯このクズに投げつけたい!!
「はは、怒ったお前も可愛いな。これで俺に隠し事は何もないよ。何でも言えるお前には誠実でいたかったんだ」
しおらしく語っているけれど。
誠実という意味を辞書で調べてからにして欲しい。
「また出直すよ。じゃあな。俺の愛しい彼女さん」
グイッと腰を引かれて唇に唇が触れた。
あっという間の早技だった。
何の余韻も雰囲気もないファーストキス。
断ったはずの、キス。
どさくさに紛れて何をするんだっ?! と叫ぶも、クズの逃げ足は速くて影も形も全く見えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!