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9月の週末、ようやく夜になると多少暑さを感じなくなる季節に入った日、衆議院議員の浅川文代は地元の自宅へ帰った来た。
地元事務所の施設秘書である初老の男性が運転する車で山あいの自宅へ向かいながら、浅川はスマホである相手と話ながら、あからさまに顔をしかめていた。
「だから何度も言ったでしょ。法律の枠内でなんとかすればいいでしょって。それは私の責任じゃありません。はあ? ああ、そうなの。でもね、星島さん、撮影が中止になるのは、あなたの方に制作会社との信頼関係に何か問題があったからじゃないかしらね。とにかく、そういう話は役所へ言ってちょうだい」
スマホの通話を切り、浅川は大きく舌打ちして毒づいた。
「まったくしつこいわねえ。汚らわしいAV女優ごときが」
やがてポツンと離れた場所にある日本風の広大な屋敷に車が到着し、浅川は秘書にスーツケースなどの荷物を運ばせ、玄関の扉を開いた。
秘書が玄関先にいくつもの荷物を運び終えると、浅川は横柄な口調で自分より少し年上の秘書に言った。
「今夜はもういいわよ。久しぶりに実家でゆっくりしたいから。両親は旅行中だから一人っきりでのんびり過ごせるわ」
秘書はぺこりと頭を下げて言う。
「では明日は午前10時のお迎えに上がります。県連の幹事長との昼食会は予定通りですので」
秘書が車に戻って屋敷から去って行った。浅川は荷物を一階の茶の間に入れて、シャワーを浴びた後バスローブを着て2階の自室に入った。
広々とした自室のソファに腰かけてブランデーをグラスで飲んでいると、窓の外から重低音が響いて来た。
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