新たな一歩

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匠の元婚約者の不貞を探り、証拠を掴んだ涼は、その証拠を元婚約者の親が務める弓道連盟に届くように親宛に送った。『婚約を解消しなければ、この写真を中条理事にも送ります』と手紙を添えて。 娘を問い詰めた親に、元婚約者は「匠がシてくれないから」とは言えず、渋々婚約解消を承諾した。 婚約を解消したら今回の事は誰にも言わない、と約束事もしたので匠の家が元婚約者の不貞を知る事も、匠が知る事もない。 匠が傷付く事もないだろうと思って、涼は安心した。 まぁ、本当の事を知っても傷付く事も無かったかな? と今の嬉しそうな匠を見て思ったが。 「でも、なんでまた?」 白々しく涼が聞く。 「さぁ、僕には理由なんてどうでも良い!家の道場を継がない事も父親に話ししてきたから、僕はずっと此処にいる!」 弾ける笑顔でそう言うと、思いっきり涼に抱き付いたので涼が二、三歩後ずさる。 「匠、涼、おめでとう」 柚月が嬉しそうに笑って声を掛ける隣りに、小雪さんも嬉しそうに並んで立っている。 涼もジワジワと実感が湧いてきて、匠を思い切り抱き締める。 「ずっと一緒に… 居られるな、俺達」 匠の耳元で囁くと、匠がボロボロと泣き出したので涼もつられて涙が滲んだ。 (柚月がいなきゃ、キスしたい) (柚月さんがいなかったらキス、してくれるのに) そんな風に思う二人を察する柚月が、冷めた顔になる。 「はいはい、邪魔者は消えますよ」 「邪魔者って!柚月さん!そんな事、思う訳ないじゃないですか!」 焦って匠が柚月に言った。 「ん、柚月、ちょっと後ろ向いてて」 涼の言葉に、ふふっと笑って後ろを向いた柚月の背中を確認すると 「匠、愛してる」 涼の唇が匠の唇に触れて、そのまま深くキスをした。 ピチャピチャと唾液の音が立ち、「ふ、うん」と漏れる匠の声に眉を顰めて我慢できなくなった柚月が、後ろを向いたまま不機嫌そうに声を上げた。 「もう、いいかなー!? 」 「ごめん、なさい… 」 トロンとした顔で匠が柚月に答えた。
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